脂肪腫の外来対応【形成外科医の引き出し②】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

診察のポイント

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脂肪腫の患者さんは「しこり」の訴えで来院されます。表面皮膚には特になにも変化はないですが、ぽっこりコブ状になっている病変で、弾力性のある柔らかいしこりの場合は脂肪腫の可能性が高いと考えます。

問診のポイントは
いつから気がついたか。
どれくらいの期間で大きくなってきたか。
・触って、押さえて、痛みはあるか

触診で気をつけることは
腫瘍の境界がはっきりしているかどうか。
・腫瘍の中に硬い成分があるかどうか
癒着している場所がないかどうか。

額の脂肪腫は前頭筋下に存在することが多く、やや硬く感じることがあります。

脂肪腫に硬い成分が含まれているとき、「脂肪肉腫」であったり、「脂肪腫に出血・炎症を伴っている場合」など鑑別しなくてはいけません。(筆者はいずれも経験あり)事前検査で普通の脂肪腫とは違うのでだいたい予測はつきます。

検査の組み立て方

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基本的にCTで診断が可能です。皮下脂肪層に存在する場合は、CTをよく見ると周囲の脂肪組織との隔壁(腫瘍皮膜)がはっきり見える場合もあります。よくわからないときもありますが、なんとなくスライム状の脂肪腫らしきものが見える場合が多く、触診の情報と合わせて診断します。ほとんどはCTだけで診断可能です。

患者さんも忙しいので、なるべく当日にCT、その日に診断つけてあげることを推奨します。

わかりにくい病変のときは、CTの技師さんに「マーカー」をつけて撮影してもらうと、場所を同定しやすくなります。気が利く技師さんなら言わなくてもつけてくれたりします。

エコーでもうっすら脂肪腫の皮膜が見えることがあります。エコーは手術直前に、腫瘍がどの範囲に存在するかマーキングに使うこともできます。

筋肉内の腫瘍であったり、神経や血管など重要組織の周囲に貼り付くような腫瘍の場合は、なるべくMRIも撮影しましょう。摘出に際して、情報が多いほうが安全です。MRIは予約になりますが、あわてて手術を決めず1回MRIを挟むことで、治療方針などについて上級医に確認する時間も生まれます。

ある程度経験を経た先生なら、CTやエコー・触診で手術を決めていくことも可能ですが、経験数の乏しい先生であれば、診断にはなるべく時間をかけて上級医と相談しながら手術方針を決めていくことが大切になるでしょう。

治療の提案方法

脂肪腫と診断がついたら、患者さんと治療について相談します。

脂肪腫の治療方針は基本的には「手術摘出」です。

良性病変ですが、放置しておくとそのままの大きさで変わらないか、徐々に大きくなるかのいずれかの経過をたどります。小さくなることはまずありません。

なるべく摘出する方針で説明します。なぜなら患者さんは「腫瘍が気になって、どうにか解決したいから来院している」ため、我々形成外科医は「解決策」を提示すべきと考えるからです。

当然放置しても命に影響はでません。ただし「大きく」なります。仮に放置してもいいよとDrに言われ、5年後に2−3倍の大きさになってしまったとすると、場所や大きさによっては局所麻酔で取れたものが、大きくなったために全身麻酔が必要になってしまうということもあり得ます。これは患者さんにとっては「大きな損害」になるでしょう。

実際かかりつけの内科医に「脂肪の塊はほっといていいから」と言われて、数年おいていたが、いよいよ邪魔になるくらいサイズが大きくなったので、かかりつけに再び受診すると「なんでこんなになるまで放っておいたの!」と怒られて、紹介状をもって形成外科に受診する・・という、ネタのような話も珍しくありません。

なかには「なるべく手術をしたくない」患者さんもおられます。無理に手術を勧めず、写真や画像での「継続評価」を提案するのも一つです。3ヶ月後の外来予約をとってあげると、次に来院するまでに家族と相談したり、自分の決心がついたりして、手術を希望されることもよくあります。

手術のポイント

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脂肪腫の手術では、腫瘍の長径の長さに対して、1/2程度の切開線をRSTLに合わせてデザインします。あまり切開を小さくしすぎると、剥離摘出のときに皮膚を牽引して辺縁を痛めてしまい、縫合後の瘢痕がきたなくなってしまうことがあります。1/2程度でしっかり腫瘍を確認しながら、止血も丁寧に摘出することが大切です。局所麻酔は切開部の真皮内・真皮直下にしっかり効かせて施行、腫瘍の局在にあわせて周囲にも麻酔をうまく浸透させます。

とくに局所麻酔で覚醒下に手術する場合は、「痛くない手術」を目指しましょう。「痛い手術=下手な手術」というのが、一般の患者さんの認識です。いくらキレイに腫瘍を核出しても、手術が痛みを伴っていればそれは下手な手術と認識されてしまいます。

デザインを切開したら、「腫瘍の皮膜」を同定します。この作業が脂肪腫の手術では最も大切と考えています。
皮膜の同定は極めて慎重に行います。CTやMRIなどの画像データから、皮膚から皮膜までの深さはある程度把握しておき、慎重に脂肪層を剥離していきます。皮膜を破って腫瘍内を割って侵入してしまうと、一気に摘出がやりにくくなります。逆に怖がりすぎて皮膜に至る手前で剥離しようとすると余計な組織まで一緒に含めてしまい、また剥離がきれいに出来ず時間も手間もかかってしまいます。
皮膜が上手く見つかったら、被膜下に滑り込み、腫瘍と被膜を剥離していきます。
よい層にはいると指をいれるだけで『ペリペリ』という感覚を感じながら周囲より脂肪腫を剥がしていくことが出来ます。指で優しく剥がしていくと線維性の成分が引っかかるところが出てきますが、そういうところはハサミで切離しましょう。

脂肪腫も生きた組織の塊です。大抵1箇所は血管が流入していたりする場所があります。細い血管なら焼灼、太い血管がつながっているときは結紮します。ブラインドで剥離しているときに深部で出血させないように注意しましょう。

【注意点】
後頚部の脂肪腫は周囲組織からの剥離が難しく、摘出が困難になることが多いです。サイズが大きい後頚部の脂肪腫はなるべく全麻での手術を推奨します。
筋層にへばりついた腫瘍も局麻ではかなり疼痛を伴うことがあるため、注意が必要です。
サイズが10cm程度のものを日帰り局麻で摘出するのも考えものです。局麻の量も増えますし、腫瘍裏面の麻酔が効きにくくなり、手術が拷問のようになってしまいます。麻酔が上手な先生なら局麻でもできるかもしれませんが、まだ経験の浅い先生であれば無理せず全身麻酔での摘出を予定することも考慮しましょう。患者さんのためでもありますし、病院としても全麻入院の手術のほうが収益性は高くなります。むやみに全麻にする必要はありませんが、むやみに局麻で摘出するのも正解ではありません。

摘出標本は病理検査に提出しましょう。脂肪腫は摘出した標本をみれば、まず診断が異なることはありませんが、病理検査での確定診断の根拠を残しておくことも大切です。

アイキャッチ:Photo by M ACCELERATOR on Unsplash

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