【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。
粉瘤の外来対応
粉瘤は一般表現であり、「表皮嚢腫」という表現が病態を的確に表しています。その言葉どおり、「表皮」が「嚢腫」状になっている状態です。内側が表皮の表面になった皮下腫瘍です。表皮はターンオーバーを繰り返し、垢(あか)となって剥がれ落ちますが、袋状になってしまうと、その垢が袋の中にたまり、徐々に嚢腫が膨らんで拡大していきます。
放置しておくとだんだん拡大していき、ある日突然、袋の内腔に感染や、炎症を生じ排膿を始めます。炎症を生じる前にしこりの段階で来院される方もいれば、真っ赤に腫れて痛みが出たので来院される方もいます。
粉瘤の患者さんが来院されたら、どのように対応して、どういう検査を考え、治療はどうしていくのかを解説します。
問診のポイント
粉瘤の患者さんが受診されたら、「それが本当に粉瘤で間違いないのか」という疑いの目で診察しましょう。
なぜなら、「粉瘤であれば良性なので、それほど心配いらない」のですが、時に粉瘤という触れ込みで受診される中に、「違う病変」が紛れてくることがあるためです。
まず第1にこれを挙げたのは、筆者にも苦い経験があるからです。実際に自分が経験したことがある、「粉瘤かと思って対応して病理結果で違う結果だった場合」の例を以下に上げてみます。
・皮膚線維腫(良性)
・ガングリオン(良性)
・血管平滑筋腫(良性)
・隆起性皮膚線維肉腫(悪性)
・白血病の皮膚病変(悪性)
悪性だった場合は血の気が引きます。慎重に対応しているつもりでも、こういうことがありますので、ぜひとも注意して診断に至ってください。
粉瘤の問診で気をつけることは
・臭い汁が出てくる。絞ると垢のようなものが出る
・以前から小さいものがあったが、だんだん大きくなってくる。
・これまでの経過について。最初は小さくて痛みもなんともなかったが、最近急に大きくなって赤くなって腫れてきて痛む。
上記のようなポイントがあれば粉瘤を疑います。なんか違うなと思った場合は、画像検査などで腫瘍周辺の情報を集め、なるべく診断を誤らないように評価しましょう。
初診時の写真撮影はなるべく行ってください。特に顔の粉瘤などでは術後に傷跡が問題となる場合が多く、術前の状態を写真で残しておくことは色んな意味で大切です。
視診のポイント
中央に「ヘソ」と呼ばれる開口部があります。皮膚のすぐ下にあり、開口部がつながっている場合がほとんどなので、皮膚と癒着しているところがあります。
逆に「皮膚と癒着していない皮下腫瘍」であれば粉瘤ではない可能性が高いです。
サイズは様々です。5−6mm程度の小さなものもあれば、15cm〜20cmほど大きくなってしまうものもあります。
検査のポイント
サイズの大きいものや、嫌な場所にあるものについては必ず画像検査で情報を集めましょう。
CTで深部構造物との位置関係や腫瘍の広がりの範囲など評価できます。神経や動静脈の走行など、以外に近くを走っているのに気が付かされることがあります。
エコーでも断面の構造が描出されるので、小さなものであればエコーだけの評価でもはっきり粉瘤と断定できる可能性はあります。
治療のポイント
炎症を伴って来院されたものについては、まずは切開排膿を検討します。炎症があるまま手術を予定してしまうと、手術当日までの間に破裂してしまったり、手術当日に感染全開になって、オペがキャンセルになってしまう場合があります。手間を惜しまず、炎症状態の粉瘤には局所麻酔をなるべく細い針(うちでは30G)で、嚢腫腔内に麻酔が入らないように周囲からゆっくり丁寧に麻酔を聞かせて、へそを含めて11番メス、もしくはデルマパンチ(生検用)で切開排膿を行います。
大切なのは内腔の「異物」を除去することです。どろどろの臭い「垢」をしっかり全て排出させて、内腔を生食などで洗い流します。皮膜は炎症が起きた粉瘤でははっきりわからないことも多く、除去できませんが、もし残骸として確認できそうなら除去します。皮膜が残留すると炎症が沈静化せずに長引きます。切開排膿のコツは「しっかり麻酔を効かせて、痛みを取り、内腔をしっかり掻爬・洗浄すること」です。
切開排膿後は「タンポンガーゼ」などは基本的には不要です。11番メスなどで切開すると、出口が弁状になり上手く排膿できていないときがあります。なのでデルマパンチなどで円形に開窓させると、タンポンガーゼなど入れなくても出口が閉じずに排膿されていきます。
自宅での処置の指導も大切です。毎日シャワーで創部を洗浄してもらいます。少し水圧かけるくらいで洗うように指導します。炎症・感染を伴う場合やサイズが大きく浸出液が多そうな場合はユーパスタ・ガーゼ保護、感染がほとんど無い場合やサイズが小さい場合はゲンタシン・ガーゼ保護の指導を行います。必ず毎日処置をするように指導しましょう。高齢な患者さんは「シャワーで洗うと菌が入る」と思っている人が多く、次回受診までそのままにしてしまうような人がいます。このあたりは指導する側にも原因がありますので、きちんと理解できるようにわかりやすい言葉で「洗浄の大切さ」を伝え、基本的には毎日シャワーで創部を洗浄して、ガーゼ交換を行うようにします。
1週間後の再診で創部をチェックし、腫脹が軽減していれば1ヶ月後の再診にします。炎症が引いてくればサイズがみるみる小さくなります。粉瘤は切開排膿だけだと再発してしまうので、1ヶ月後に瘢痕・残存皮膜を含めた根治術を提案します。
説明の仕方「絶対必要ではないですが、切開だけで置いておくと高確率で再発を認めます。とくに大事な用事の前に腫れたりすることがあるので、根治術をすることをおすすめします」
粉瘤の手術で気をつけるポイント
粉瘤の摘出術には「形成外科の基本手技」がたくさん含まれています。
手術を行うときには、ぜひ以下のポイントをおさえて、繊細な手技を目指しましょう。形成外科のあらゆる手技に通じる非常に大切なことです。
・局所麻酔の繊細さ
・痛みが最低限になるような麻酔の仕方について工夫する
・メスの入れ方、角度
・皮膜を破らないように、余計な組織を取らないように周囲から剥離
・炎症を起こした組織から粉瘤組織を核出する
・欠損を生じた皮膚を埋没縫合で歪みを生じさせずにキレイにあわせる
・内腔のデッドスペースを残さないように上手く埋没で仕上げる
・大きさや場所にあわせた埋没糸(吸収性糸)のセレクト
・場所に応じた表面糸の太さのセレクト
・dog earが生じた場合の処理の方法
・表層縫合の大切さ、0.1mmレベルでのズレ無し表層縫合を目指す
・suture markを作らないための表層縫合の締め具合
・デザインの大切さ、RSTLを配慮し、重要臓器との位置関係や筋肉の動きを意識したデザイン作成
・抜糸のタイミングの配慮
・患者さんの手間を減らし、安全に抜糸をむかえるための術後管理の説明
格言「形成外科は粉瘤に始まり、粉瘤に終わる」
アイキャッチ画像:Image by Sasin Tipchai from Pixabay