褥瘡の初診患者への対応【形成外科医の引き出し④】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

褥瘡初診患者が外来に来たらまず考えるべきこと

褥瘡患者さんが外来初診で来院される場合、まず第一に考えなくてはいけないことがあります。

入院させるべきか、外来通院で見ていくことが可能か。

褥瘡は圧迫潰瘍、ずれ(剪断応力)潰瘍であり、環境要素により生じます。また褥瘡は「終末期の現象」でもあり、全身状態が大きく崩れた結果生じている場合があります。それらどちらの理由であっても、基本的には「入院管理」が安全で、推奨されます。

「環境要素での褥瘡」は、「自宅」や「施設」でのベッド、車椅子、体位変換不足、便や尿によるおむつ汚染の交換不足など、設備や介入不足による結果生じている場合を指します。この場合、環境要素を変えなければ褥瘡の局所処置だけしても「増悪」します。「処置を指導し、そのまま自宅や施設に帰して1週間後にチェック」などすることは、原因除去が出来ず創部を更に悪化させたり、別部位に発生させてしまうなど、良くない結果に繋がりうる選択肢です。環境隔離目的に本人、家族、施設職員に入院の方針で説明して対応します。

「終末期褥瘡」は、肺炎や尿路感染、経口摂取不良による脱水など様々な悪化要因にて全身状態が悪化し、超高齢という治癒力不足が相まって、終末期に移行しつつある状況で生じてくる褥瘡です。たとえば施設・自宅で看取りまで考える患者さんなら、状況を理解していただき帰宅していただくことも選択肢になります。ただし、全身状態の改善次第ではお元気になられる可能性も大いにありますので、個人的にはこういう場合についても積極的入院の適応と考えます。

創部の評価

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褥瘡の創部の評価で有名なのはDESIGN-R評価です。

DESIGN®は、Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)ポケットがある場合は「-P」を付けます。
DESIGN®では、各項目の点数を合計して重症度を見ます。そして合計点が少なくなれば褥瘡は改善されていることになります。

最新版の評価ツールではDESIGN-Rと呼ばれ、点数の重み付けが追加されました。「R」は「rating」の略です。DESING-Rでは合計点に「D(d):深さ」の点数を足しません。

褥瘡回診でも使う評価ツールです。形成外科なら知ってて当たり前ですのでこれを期に覚えておきましょう。

先に書いたとおり、褥瘡初診時の考え方として「入院させるか、外来で診れるか」の判断が大切です。その判断で大切なのはD(深さ)の評価です。D2レベルの浅い褥瘡であれば通院でも対応可能と判断しますが、D3レベル以上の褥瘡であれば入院で対応するほうが早期治癒が見込めます。

外科的治療で保存的治療を上回る結果や治療短縮が得られますので、D3以上の褥瘡は入院を勧めます。

考えるべき検査

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感染の評価:一般採血と尿検査  肺炎や創部感染、敗血症、尿路感染を評価します。

胸部Xp:肺炎、心不全の評価。心拡大などの情報を得て補液のバランスを考えます。

創部周囲のXPやCT、MRI:足の褥瘡などでは骨髄炎などの評価のためXPにて骨融解像を探したり、MRIで骨髄炎を見ましょう。仙骨周囲で深い褥瘡の場合はガス壊疽などの評価のためCTが推奨です。皮下にエアが広がっていれば緊急事態ですので切開デブリをその日のうちに行う必要があります。

心エコー:心機能の評価を初期にしておきます。終末期褥瘡の場合心不全が治療のネックになることが多く、初期評価がほしいところです。

下肢褥瘡の場合は血流評価も追加しましょう。ABI、SPPなど。

入院になることが決まっているなら採血で栄養評価の採血も追加しましょう
・レチノール結合蛋白(半減期 0.5日)
・トランスサイレチン(半減期 1.9日)
・トランスフェリン(半減期 7日) 

当院ではこの3種をルーティンで測っています。

また創治癒遅延の原因になりうる微量元素の評価についても入院早期のタイミングで測っておきます。
・亜鉛 
・銅
・鉄 
 この3種はルーティンで測っています。亜鉛・銅は外注なので結果がでるまで1週間程度かかります。

急ぐべき治療について

まず最も大切なのは「全身状態の把握」です。感染症による高炎症状態や、ショック状態である場合には、いくら創部の壊死組織が気になっても「デブリードマン」は少し待機します。

当然膿汁が大量に貯留しており、それが原因で全身状態に影響しているような場合は切開排膿が急がれますが、万一出血を大量に生じたりする場合があれば切開・デブリしたことで「急変」を引き起こすことも考えられます。

まず全身状態を把握、入院させてモニターをつなぎ、補液ルート確保下でバイポーラーを準備して切開排膿をするのが安全です。

全身状態が落ちている場合、経口摂取も出来ない場合がほとんどです。早期に中心静脈ルートのキープが必須となります。大腿静脈もしくは内勁静脈からのCV確保は基本的にはトリプルルーメンで早い時期に行いましょう(同意書もそれを見越して入院時に取得、全身状態が悪い場合は血液製剤同意書についても一緒に取得します)

とりあえずの創部処置でいい

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局所処置については、初診時の場合はとりあえずの処置で大丈夫です。入院管理にするかどうかの判断が大切であり、入院させるとなるなら、あとでゆっくり処置をやり直すこともできます。
感染がありそうなら、ユーパスタ・ゲーベンなどの抗菌性のある軟膏、ガーゼでとりあえず覆っておきましょう。

軽症であり、外来で見ていくと判断する褥瘡であれば、創部の潰瘍の感染有無・浸出液の量、処置をする方の理解力など総合的に判断して処置を決めていく必要があります。

通院でも診れると判断した場合

通院での褥瘡治療を計画する場合、通院のタイミング(間隔)をどうしていくかが重要です。一見軽症な褥瘡にみえても、まだ深部の壊死がはっきりしていない時期かもしれません。

症例にもよりますが、いくら軽症な褥瘡でも元の環境に帰らせるのであれば、最初は1週間程度で再度観察を行い、創部の悪化がないか確認します。

安定している場合や治癒傾向にある場合は、同じ治療を継続し2週後、4週後と間隔を開けていきます。褥瘡患者の場合、来院するだけでも車椅子や介護タクシーなど手配が大変なので、なるべく来院のタイミングが減らせるように配慮しましょう。

まとめ

あくまで「外来での褥瘡初診患者への考え方」をまとめました。大切なのは「入院させるか、否か」の判断です。入院後の治療については、非常に多岐・長期にわたりますので1つの記事では書けません。いずれ状況ごとにまとめていきたいと思います。

アイキャッチ:Image by StockSnap from Pixabay 

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