【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。
悪性かもしれない皮膚腫瘍の初診
形成外科の外来診療では皮膚腫瘍の治療相談がおそらく最も多い内容です。単純に「できものが邪魔だから取りたい」「膨らんできて、大きくなってきて気になる」という悩みもあれば「悪性かどうか心配なので検査したい」という方もたくさん来院されます。
悪性かもしれない皮膚腫瘍の相談患者さんが来院されたら、初期対応はどうするのか。詳しく解説します。慎重に先読みして対応しましょう。
鑑別疾患
黒いほくろのような病変:色素性母斑、基底細胞癌、悪性黒色腫
ざらざらした皮膚の局面:脂漏性角化症、日光角化症、ボーエン病、有棘細胞がん、乳房外ページェット病
出血をともなう潰瘍性病変:炎症性潰瘍、うっ滞性潰瘍、有棘細胞がん、基底細胞がん、
昔のやけどの痕から出血でてきた:肥厚性瘢痕、有棘細胞がん
長年治らない傷・潰瘍:うっ滞性皮膚潰瘍、有棘細胞がん、隆起性皮膚線維肉腫、
赤の文字は「悪性」の疾患です。初診時にこのようなキーワードを訴える患者さんが来院されたら、必ず悪性を頭に入れて対応しましょう。
検査の組み立て
写真撮影:必ず初診時の写真をとりましょう。良性かもしれませんが、生検で悪性と出た後に戻って撮影することはできませんので、初診時に撮影する「癖」をつけておきましょう。腫瘍を含めた広角の撮影、腫瘍の拡大写真の2枚を必ず撮影するようにしてください。
皮膚生検:まず悪性を疑うなら生検を考えます。デルマパンチにより腫瘍の中央や崩れにくい部位から十分な組織量を生検します。メラノーマを疑うなら全摘生検が理想ですが、難しい場合はtumor thicknessがわかるように最も分厚そうな場所から生検しましょう。
腫瘍を含めたCT検査:深部の状態、神経・血管の走行や腫瘍との位置関係、所属リンパ節の腫脹の有無などは確定するまでにも調べておくといいでしょう。
造影CT:腫瘍がある程度のサイズを有するものであれば造影CTにて造影効果の有無を調べます。当然、採血にて腎機能を評価してから実施します。
エコー:腫瘍の深さや分厚さ、内部血流なども評価できます。悪性の場合はエコーで腫瘍内部の新生血管増生が確認できます。
小さい病変であれば、いきなり皮膚腫瘍切除術で縫縮してしまってもいいですが、少しでも悪性の可能性があるのならば生検を挟んで、診断をつけてからしっかりとマージンを確保して切除、病理検査で深部断端・側方断端の評価を行ってから、欠損の再建を行うことが推奨です。
ICの要点
生検の時点では、まだ悪性と決まったわけではありません。むやみに患者さんを心配させることのないように、説明は慎重に行うべきです。
ただし、生検を行う理由を説明する必要性もあります。生検をする理由として、悪性を否定できないことはお伝えしましょう。動揺される方もいますので言葉に気をつけましょう。
「見ただけでは良性か悪性かは判断が付きません。
部分的に腫瘍を採取して、顕微鏡の検査で細胞を確認します。
採取した場所は2−3mm程度なので、糸で縫い合わせて閉じます。
1週間程度で結果が出ますが、場合によっては2週間ほど必要になる場合もあります。
結果に応じて、対応します。
良性であれば、単純に切除するだけです。
万一悪性であれば、できものの辺縁から少し距離をとって切除する必要があります。
良性と悪性で治療が異なるので、事前に病理検査で診断をつけておく必要があります。」
悪性の場合はマージンをつけて根治切除術が必要になり、その後断端陰性を確認した後に皮弁や植皮による再建を予定します。最低でも1ヶ月近い治療になります。
まとめ
他にも注意点はあるとおもいますが、とりあえず「悪性を疑ったら気にすること」というテーマでまとめてみました。生検にて診断がついた後は必ず【皮膚悪性腫瘍ガイドライン」の治療を参考に、丁寧な対応を心がけましょう。
ガイドラインは覚えて入ればbestですが、更新されたりすることもあるので、その都度「日本皮膚悪性腫瘍学会」のページで確認しておきましょう。以下にリンクを貼っておきます。トップページにガイドラインへのリンクを貼ってくれています。
悪性皮膚腫瘍は、対応を間違えなければ完治できます。ただし、甘く考えないでください。癌は、一歩間違えば生命予後に関わります。ほくろだと思って見逃していたでは済まされません。たくさんの良性皮膚腫瘍にまぎれて、皮膚がんは突然現れます。常に疑いながら、気を配りながら診療しましょう。
アイキャッチ:Photo by Karolina Grabowska from Pexels