陥入爪初診患者の対応【形成外科医の引き出し⑦】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

陥入爪初診患者の対応

陥入爪の訴えで患者さんが来院されたら、まず年齢を確認します。若年者と高齢者で原因が異なる場合が多いためです。

①若年者(10代〜20代)の陥入爪 

深爪・オーバーネイルが原因になっている可能性が高く、治療としてはそれらへの対応になるので、陥入爪の外科的治療やガター法、ワイヤー治療、人工爪などを考えていきます。

②高齢者の陥入爪

高齢者の場合は爪白癬による肥厚爪、外反母趾・開張足・扁平足などに起因する浮き指からの母趾荷重不良、それによる爪の弯曲などが原因となることが多いです。当然治療はそれらに対応していくことになります。フットケアによる爪の菲薄化、爪白癬治療、インソール療法による母趾荷重の修正、フットケアリハビリによる歩行フォーム指導などが治療の中心となります。

当然若年者でも白癬や扁平足による影響をみることもありますし、高齢者の方が深爪、オーバーネイルの影響を受けることもあります。ただし、多くは上記の法則に当てはまります。広い視野で見ながら、まずは患者さんの足や情報から初見にて「どういう方針を提案していくか」を反射的に考えつける能力を身に着けましょう。

症状別の対応法・治療

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①深爪 

一時的な悪循環に陥っているだけの可能性が高く、ガター法や爪を伸ばす指導(&テーピング治療)、陥入部への綿花挿入など、刺さりこみを生じている部位をとにかく浮かせれば、症状が改善します。

ただし、ガターを除去したりワイヤーを外したりして、深爪をしていないのに痛みが再発する場合は、必ず「違う原因」を考えましょう。万全と同じ治療をしないようにしましょう。

②オーバーネイル

母趾の指幅に対して爪の幅が生まれつき大きすぎている場合が「オーバーネイル」であり、側方で爪が彎曲して疼痛を生じる場合があります。この場合は、ガターやワイヤー治療はあくまで一時しのぎでしかありません。特に若年者の場合はその一時しのぎが延々と続いてしまいますので、早期に外科的治療を提案します。

当院では児島1法変法で対応しています。指ブロックで30分程度で日帰り手術対応です。原法と違い、後爪郭の斜め切開はせず、爪母を11番メスで核出します。また爪母を取ることで生じたデッドスペースは3−0ナイロンでマットレス縫合して埋め合わせします。1週間で抜糸、浸出液は3−4週で止まり、治癒します。これについては以前詳細に記事にしていますので、以下にリンクを貼っておきます。

フェノール法でも悪くはありませんが、爪母以外にも影響出ることがある点、化学的腐食なので繊細なコントロールがしづらい点、腐食部が難治化して1−2ヶ月ほど浸出液が止まらないことなど色々デメリットがあります。形成外科的な細かい手技を身につけているならフェノールで「なんとなく腐食」よりも、「爪母を見極めてキレイに確実に切除、欠損腔も確実に閉鎖する」ほうが、なんとなくしっくりきます。

③爪白癬

高齢者に多く、爪白癬により爪が肥厚変形を生じ、側面に刺さり込んだり、彎曲して指尖部の組織を挟み込んだり、様々な形状で見られます。ポイントは「異常な爪肥厚」と「異常な彎曲」です。巻爪として扱われている中にも、爪白癬が原因であるものも多数あります。せこせことワイヤーや矯正されている患者さんもおられます。1−2年も矯正しているが治らないと来院されることもあり、目を覆いたくなります。矯正で白癬爪、高度巻爪を平坦にすることが「治療」と思い込んでいる医師がたくさんいますが、個人的にはありえません。

爪白癬については治療1択、フットケアドリルによる爪白癬の病巣減少と、爪白癬治療外用薬の使用です。「の」の字型に巻いていようが、反り返っていようが、分厚く肥厚していようが、とにかく爪白癬が原因なのであれば、それを減らせば悩みは解決します。爪白癬は爪の深部深いところに巣があり、長期放置しておくと爪床にダメージを生じ、爪床が上皮におきかわることで肥厚爪を作り出します。肥厚爪でボロボロになってしまうと、その爪がなにかと引っかかり、爪床基部にさらに出血や外傷を生じやすくなり、その果てには爪付着部の潰瘍形成、さらには末節骨の骨髄炎、足趾の蜂窩織炎、それが下肢全体に広がり入院適応となり、DMや虚血肢の方であれば下肢切断にまで至る場合もあります。フットケアドリルによる白癬治療についても以前に紹介した記事がありますので、リンクを貼っておきます。

予防的ケアの観点から、爪白癬、肥厚爪については早期フットケアを推奨しています。フットケアドリルで爪を削除、適切な清潔指導を行い、次生えてくる爪を外用薬を使いながら誘導することで、きれいな爪が生えてきます。

白癬の程度や外用薬の塗り方によっては次の爪も白癬爪で生えてくる場合もしばしばあります。除菌失敗です。ただし、がっかりする必要はありません。そのままにしておくよりもよっぽど安全だからです。先に挙げたように、白癬爪や異常な肥厚爪を放置しておくと様々な足疾患に繋がり、最悪下肢を失う患者さんも生まれてしまいます。次の爪が生え揃うには6ヶ月近くかかります。白癬で再発すれば、また処置をすればよいだけです。

④浮き指

浮き指が原因で足底側からの荷重がかからず、爪が彎曲していくことがあります。原因は足の足根骨・中足骨付近の靭帯のゆるみ、足底筋群が弱いこと、足似合っていない靴をはいていることなどが挙げられます。それらの影響で開張足(外反母趾)、扁平足を生じ、母趾が浮いてしまうという原理です。

治療はインソール療法が主体となります。彎曲・食い込み部の疼痛が強い場合は、ガター法やフットケアドリルによる爪の菲薄化などでまずはそちらを対処します。

インソールについては当然適応があるかどうかXPで診断が必要です。開張足は第1中足骨と第5中足骨のなす角度が30度を超えた場合に診断されます。扁平足は足底平面に対する、踵骨の聳立度を足底し20度を切る場合には「疑い」、15度を切る場合に「診断」と扱っています。

インソールを採型・作成し、足幅にあった靴を医師がしっかりとセレクト(指導)してあげることが治療と考えています。インソールと靴が出来た後はリハビリが必要です。足底筋群のトレーニング、足趾の可動性UP、正しい歩行姿勢の獲得が浮き指改善に繋がり、巻爪の再発を防ぎます。

当院のフットケアリハビリの理学療法士さんたちはとても信頼できる方々ばかりで、たくさんの患者さんのフットケアリハビリを実施してもらっています。1ヶ月を基本として週1回の通院で「教育指導とマッサージ、トレーニング、宿題の提案」を行っています。また開始時と1ヶ月終了時での評価もしており、ほとんどの患者さんが浮き指改善を認めています。フットケアリハビリを実施しはじめてから、巻爪の再発が劇的に減りました。

ICの要点

巻爪は必ず原因があります。巻いているところを矯正するだけの治療は「根本的な」治療にはなりません。

巻いている爪が治っても、原因がはっきりせず治っていなければ、再発してしまうことはわかりますよね。。

でも、爪が巻いて痛いという悩みを早く取りたいという気持ちもわかります。

なので、まずは爪の刺さる痛みをどうにかしましょう。その次に必ず原因に対して向き合い、改善できるようにしていきましょう。

まとめ

爪の診療は「診療報酬」が低く設定されている分野です。なのでしっかり見てくれる病院が少ないかもしれません。最近ではインターネット、SNSで「爪マニア」のような先生が見つけやすく、お悩みの方はそういった「爪診療」に本気で向き合っている先生の外来を受診するようにしましょう。

足の問題から、歩けなくなり寝たきりになってしまう高齢者が多く、国としてももっとフットケアの予防医学に診療報酬をつけてほしいところです。そうすればフットケアを手厚く対応するクリニックや病院も増え、健康維持につながると思います。

若手形成外科の先生には、スキルの一つとして是非「爪疾患」に対して自信もって、理論的に対応できるようになっていただきたいです。

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