NPWT+フレキシシールのススメ【形成外科医の引き出し10】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

フレキシシール(コンバテック社)とは?

フレキシシールってご存知ですか?

簡単に言えば「便バルーン管理」です。尿管理のために尿道カテーテル・バルーン留置はよく見かけますよね。あれの便ver.です。

どういうときに使うか。

①下痢便が長期に続き、管理が大変な状況

②仙骨褥瘡で便汚染がひどく、治癒に影響を及ぼす状況

③臀部周囲の熱傷で処置管理時に便汚染が問題になる状況

多くは上記のような状態で、特に皮膚潰瘍、皮膚壊死を伴う②、③の状況においては有用です。

製品の内容はこんな感じです。中央にある長いチューブ状のものが主役です。

左に見える白いコネクタに袋を取り付けて、チューブを伝って出てきた排便を回収します。

ここを取り付けます。袋に便が溜まってきたら、クランプして袋を交換することが可能です。初期セットには袋3枚入っていますが、追加購入も可能です。

先端バルーン部分を用手的に肛門から直腸内へ挿入します。シリンジに水(水道水でも生食でもOK)を充填。45ml以下に留め先端のバルーンが直腸内膨らみ、抜けないことを確認できれば設置完了です。

イメージ的にはこのような形で設置されていることになります。

irrigation用のコネクタからシリンジ2本分(90ml程度)をゆっくり注入すると、バルーン先端から水が出る仕組みになります。下痢もしくは軟便であればirrigationを1日90ml程度行うことで、より便をチューブ内に回収しやすくすることができます。

ちょっと便の映像なので、小さめの画像にしていますが・・・こんな感じでドレーン内に便が回収されてきます。

肛門が近い部位のNPWT管理に有用

基本的な使い方は理解していただけたとおもいます。ではどういうメリットがあるのでしょうか。

熱傷のICU管理であれば非常に処置の便汚染対策として有用だと思います。当院のような一般総合病院であれば「肛門に近い部位の重度褥瘡」や「臀部の広範囲皮膚壊死(熱傷やフルニエ壊疽など)」の場合に有用です。重症例の場合はストマ作成による便管理も1択です。ただし、侵襲的な対応になりますので、できれば避けたいところでもあります。

フレキシシールがうまくフィットすれば、便汚染が完全に無くなるわけではありませんが、うまく管理できていれば非常に便によるトラブルは減ります。

「NPWTをやりたいけど、肛門近くであり、便の入り込みなどにより難しい」という状況であればフレキシシールは一つの選択肢となります。

注意点・合併症

合併症に注意は必要です。一つはバルーンの圧迫による直腸潰瘍のトラブルです。これについてはバルーンの膨らませすぎ、牽引のしすぎなど注意していくことで予防に努めます。

もう一つは「横モレ」です。フレキシシールを入れていても完全に水様便であればチューブの脇から漏れ出てくることがあります。少し軟便くらいに管理できれば脇漏れが止まることがあります。また、脇漏れするからバルーンをさらにふくらませるのは逆効果です。少し容量を抜くことでバルンを柔らかめにして、直腸〜肛門の形状にフィットさせることで漏れが減る事例もあります。

最後はバルーンの脱出です。高齢者で肛門括約筋が緩んでいる場合はmaxに膨らませてもフレキシシールのバルーンが脱出してくることがあります。その場合は申し訳ありませんが使用できません。

コストに対する考え方

フレキシシールの大きな問題点の一つに「高コスト」が挙げられます。製品キットが高額です。細かい納入価格は病院ごとに違うと思いますが、定価は5万円を超える製品です。このコストが導入をはばかられる大きな要因となります。当然病院持ち出しです。

部分的に点数を取れる場合があります。
条件が2点あり、1つは「救命救急入院料、特定集中治療室管理料、ハイケア ユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料又は無菌治療室管理加算を 現に算定している患者」、もう一つは「医師もしくはWOCナースが処置を行う」という2点です。これらの条件を満たす場合点数の算定が可能です。

「J022-5 持続的難治性下痢便ドレナージ(開始日) 50点
2日目以降は区分番号「J002」ドレーン法(ドレナージ)(1日につき)の「2」その他のもの25点で算定

30日装着継続したとすれば、50点+25点×29日=775点の回収が可能です。7750円・・・・これだけでは大きな赤字ですね。さらにICU入室などハードルが高いので、この7750円だけの収益狙いでフレキシシールの導入を考えるのはあまり現実的ではありません。(実際個人的には、この算定は無いものとして考えています。

消耗品と人件費コストの計算については有益だと思います。実際フレキシシールを使用していない場合は頻回なおむつ交換が必要になり、そちらの物品的コスト、及び交換に要する人件費のコストなどが必要なくなります。それらを計算された文献も存在します。
その文献では、だいたいおむつ交換の物品コストは1日で850円程度削減、人件費も(看護師時給やおむつ交換に要する人員や時間から計算)1日で1万円程度が削減できるという計算になっていました。ちょっと人件費は言い過ぎだと思いますが、たしかにおむつ交換の手間は減りますので物品コストも含め安くみても1日5000円くらいのコスト・手間削減にはなっていると思います。30日では15万円ものコスト削減ですね。実際30日つけるかどうかわかりませんが、半分の2週間程度使用するだけでおそらく本体分、消耗品分くらいは回収されているはずです。ただし、これでは収支ゼロであり赤字にはなりませんが、利益性もありません。

【フレキシシールにNPWTを併用する場合】については話が変わります。
NPWTによる継続利益も算定できることになります。NPWTは機械のレンタルコストや、消耗品コストなどを計算するとそれほど利益性はありませんが、初期加算なども考慮すると4週間使用するなら「ある程度(こちらも病院ごとに違うので曖昧にしておきます)」の収益が見込めます。フレキシシールを導入することでNPWTが開始可能となるのであれば、こちらも抱き合わせでコスト計算するべきでしょう。
フレキシシールのおかげで良好な肉芽化も見込め、創部の便汚染などによる感染も防げ、次の外科的手術への期間を短縮できることも考慮すれば、メリットは大きいと考えます。(これについてはフレキシシールというよりもNPWTの利点なのですが)

以上より、便汚染で管理が大変な臀部の潰瘍については、「NPWT+フレキシシール」の選択肢も1つに挙げてみるのはよいのではないでしょうか?フレキシシールのコストが高額なのでためらっていた先生や看護師さんたちも、こういう収支コスト計算を持って病院事務側に採用交渉してもらえばスムーズに導入できるとおもいます。

なにより患者さんの安楽、治療につながります。医療は「金」がすべてではありませんが、「現実問題としてお金の収支を考えて提案すること」は非常に大切です。見かけのコストだけ考えていると良い医療が出来ていないときもあります。病院を赤字にせずに、患者さんに最適な治療を提案できるように、コスト意識を高めることは非常に重要だとおもいます。

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