医療経営的な視点【形成外科医の引き出し12】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

コスト意識の重要性

医師として外来診療を運営していく上で、病院のスタッフとして勤務する上で、「医療経営」についての知識は必須です。一般の方は以外に思われるかもしれませんが、医学部に入学して、医師免許を取得するまで、医療経営的な知識の授業・勉強は殆ど行われません。もしかすると大学によってはそういう授業があるところも存在するかもしれませんが、少なくとも私の経験では医療コストに対する勉強は一切ありませんでした。当然国家試験の問題にも出ません。

それどころか、初期研修医2年間の間にも「各自が意識をしなければ」殆どの場合、医療コストについて教えてもらえる機会はありません。たまたまコスト意識が高い医師や看護師に教えてもらえる機会もあるかもしれませんが、研修医の時期にはそれ以上に覚えるべき大切なことが多く、コストのことまで頭が回っていない人が殆どだと思います。

実際、これまでに研修医の指導にもたくさん携わってきましたが、処置がいくら位になっているか、ガーゼや軟膏がいくらぐらいなのか、その日の手術の費用がいくらになっているか、担当患者の入院費用がいくら支払われているか、答えられる人はいませんでした。

3年目以降、各専門診療科に進む専攻医の先生は、少なくとも自分の診療に関する医療費がどれくらいなのか、自分の行った手技・手術、治療がいったいいくらになっているのか把握しておくべきだと思います。

形成外科の場合、このスキルは入院診療よりも外来診療でより重要になります。

手術を決める話をしていると、よく「だいたいおいくら位の支払いになりますか?」と患者さんから聞かれます。細かい麻酔量や軟膏のセレクト、量などで微妙に変わるので確定した値段は出せませんが、Kコードによる手術費用の概算や、短期入院でのパッケージ手術の場合の費用概算などは即答できると信頼感が上がります。

考えれば当然のことです。医療も経営の上に成り立っています。商売する方が自分が販売する商品やサービスの価格を答えられないなんて、信頼できないとおもいませんか?すべて覚える必要はありません。「少し待ってくださいね」と言ってその場で調べて返事できるようなスキルがあれば十分です。

外来診療に関連するコスト意識

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外来診療には当然、初診料と再診療が必要です。

初診料は288点、再診料は73点。病院の規模や体制、時間外診療などによる加算などはこの場合はややこしくなるので省いておきます。外来に呼び込み、話をしただけであれば上記の点数が病院に支払われます。患者さんの自己負担額は年齢や収入に応じて1割から3割と変化しますが、病院が得るお金には変わりません。

自分の診療にお金が発生していると意識して、患者さんに対応しましょう。お金は関係ないという方もいるとは思いますが、初診患者を診察したら2880円も発生していると思えば、なんだか急に気が引き締まる思いです。

検査・処置についてもコストが発生します。

たとえば レントゲンは2枚で「画像診断量+電子画像管理加算」を含めて287点(2870円)

CTは「撮影料+画像診断量+電子画像管理加算」1470点(14700円)

MRIは「撮影料+画像診断量+電子画像管理加算」1900点(19000円)

結構かかります。

外来手術は覚えきれないので、医科診療報酬点数表を参考にしてください。それを見ればすべて掲載されています。Kコードと呼ばれるコードで分類されています。

たとえば形成外科でよくある日帰り手術としては

K005、K006の皮膚皮下腫瘍摘出術

K007 皮膚悪性腫瘍切除術

K013 分層植皮術、全層植皮術

K015 皮弁形成術

K219 眼瞼下垂症

K617 下肢静脈瘤手術

これらの点数については「だいたいいくら位」と言えてほしいです。検索すればすぐに点数が出てきます。覚える必要はなく、ググれる力があれば十分です。もし患者さんに質問されても、その場ですぐ調べて「手術費用に限った価格ですが・・」と前置きして教えてあげると、患者さんの信頼度が上がります。

入院診療に関連するコスト意識

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入院のコストについては食事や部屋(個室か大部屋か)などによっても大きく変化するので、その場で概算だすのは非常に困難です。

今働いている病院がDPC(診療群分類包括評価)なのか、出来高なのかにもより変化します。

なので入院中の患者さんに「私の入院費はいくら?」と聞かれても、即答は無理です。でもお金に関することは、治療とは別でその人にとって非常に大切なことなので、病院医事課に連絡して概算を出してもらいましょう。

定型的な手術、たとえば当院では眼瞼下垂(挙筋前転術 両側)は2泊3日でほとんどの場合対応しています。この場合は多少のUP,DOWNはありますが、2泊3日で22000−23000点(22万〜23万円程度)になります。なので、自己負担割合を聞いて1割の方であれば2万2−3000円くらい、3割負担の方であれば66000−69000円くらいと答えることができます。

下肢静脈瘤手術(血管内焼灼術)は1泊2日で対応しており、19000−20000点(19万〜20万円前後)になります。なので、静脈瘤治療はおいくらくらい準備すればいいですか?と聞かれた場合は、自己負担1割の方なら2万円程度、3割負担の方は6万円くらいと答えればいいです。

当院はDPC病院なので入院病名により1泊の価格が変わります。このあたりもややこしいですが、DPCの基本ルールくらいはわかるようになっていたほうがよいでしょう。

お金の話、細かい話をすると切りがないほどあります。診療科としてどれくらいの売上があるのか、他の診療科と比べて自診療科は経営貢献できているのか、無駄なコストをとっていないか、逆に自分の診療のコストを算定わすれていないか。疾患や手術の技術の勉強とともに、経営的な勉強も平行して行っておくと将来必ず役に立つと思います。

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