眼瞼下垂初診患者の対応【形成外科医の引き出し⑧】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

眼瞼下垂初診患者の対応

①写真をとる

眼瞼下垂症の訴えで患者さんが来院されたら、まずは必ず「写真」を取りましょう。初診時の写真は、どんな疾患でも重要になってきますが、眼瞼下垂の場合は特に重要です。患者さんは自分の顔は鏡でしか見えません。写真をとって、どのあたりが気になっているのかを、一緒に相談していくことが大切です。また今後手術治療の流れになって、術後経過を見ていく上で、初診時の写真と比較しながら改善点を見ていくことは、「患者満足度」を上げるポイントにもなります。

写真のとり方:一眼レフカメラ+リングライトで正面から顔全体がまっすぐ写るように数枚連続でとります。一度目をつぶって1枚撮影し、楽に目をあけてすぐの状態でもう一枚撮影します。たくさん写真を取るのは、瞬きにより「下がったようにみえる」写真になってしまうことを避けるためです。初回の写真は非常に重要ですので、絶対に忘れないようにしましょう。

②瞼裂幅、挙筋機能、MRDを測定する。

リラックスして遠くを見てもらって瞼裂幅を測定します。おでこを手でおさえて前頭筋の作用を抑制しながら「足元をみて、天井を見て」を繰り返し、挙筋機能を測定します。あとは先に撮影した写真からMRDを測定します。この測定値はカルテにしっかり記載して、眼瞼下垂の程度に対する評価とします。

③問診

患者さん本人が左右どちらが下がっていると感じているかを聞くことが重要です。自覚症状です。左右差ないという方も多くおられます。

コンタクトの有無、頭痛の有無、肩こりの有無についても問診します。

生まれつき二重なのか、一重なのかについても聞いておきます。

どういうときに支障を感じるのか、車に乗っているか(信号や飛び出しの見逃しにつながる)なども情報収集しましょう。

あとは一般的な既往歴や内服(抗血小板、抗凝固薬)についてなども聴取します。

眼瞼下垂で相談に来たことを家族や近い人(友人)などに相談したことがあるかどうかも実は大切なポイントです。

④診断

上記の診察、測定、問診などから総合的に判断し、眼瞼下垂について手術適応なのかを判断します。

腱膜性下垂がメインなのか、皮膚性下垂の影響が大きいのか、その両方なのか。

先天性なのか、外傷が誘引として起きたものなのか、顔面神経麻痺から出た下垂なのか、疾患の症状として(重症筋無力症、脳梗塞など)出たものなのか。色んな角度から、患者さんの眼瞼下垂に対して、自分が考えている治療が奏功するのか否かを検討します。

病態別の対応法・治療

Image by Sofie Zbořilová from Pixabay 

①腱膜性眼瞼下垂

MRDが保てていない場合は、腱膜性下垂の場合が多いと考えます。腱膜性と判断したのであれば、動力源である眼瞼挙筋の操作が必ず必要となります。治療の選択肢としては「挙筋前転術」を想定して対応します。細かい手技については専門書を参考にしてください。

日帰りでも出来る治療ですが、術後当日から翌日の腫脹が強く、その期間の圧迫やcoolingにより少しでも腫脹を抑えるため、入院での手術を推奨しています。術後2日目が腫脹のピークとなります。うちでは、ハイドロサイト銀などで創部の圧迫療法を行い、「メオアイス」という眼瞼下垂用のcooling剤を使って、持続的に冷却し、少しでも腫脹のピークを抑えるように術後対応しています。退院後は術後1週間で抜糸、1ヶ月半、3ヶ月、半年の3回は必ず来院していただき、写真を取ります。腫脹の経過をしっかり記録して評価すること、術前からどのように変化したかを評価することが大切です。

②皮膚性眼瞼下垂

皮膚性下垂の場合は、比較的MRDは保たれている場合が多く、垂れ下がった上眼瞼皮膚が睫毛に乗りかかって重さを感じています。眉の下で皮膚を持ち上げると、自覚症状が改善する(目が楽に開けられる)なら、治療が奏功する可能性が高くなります。瞼を持ち上げても、改善を感じない方は治療後も不定愁訴が出る可能性があり、もう少しじっくり評価したほうがよいでしょう。

治療は「皮膚眼輪筋切除」もしくは「眉下皮膚切除(眼輪筋タッキング)」で対応します。細かい手技についてはこちらも専門書をご参考に。

瞼板や挙筋を触らない場合、それほど目元キワは腫れませんので、大抵日帰り手術で対応しています。術後のfollow upも1ヶ月半、3ヶ月、6ヶ月での写真比較は同じですが、挙筋前転よりも見た目の印象は変わらないため、3ヶ月くらいでfollow upを終えていることも多いです。

③顔面神経麻痺から眉下垂を伴う眼瞼下垂

ベル麻痺やハント症候群の陳旧例では、挙筋機能は聞いているが眉が下がり、眼瞼皮膚が垂れ下がり、眼瞼下垂症状を呈します。治療の考え方としては、まず安定していることを前提として、眉の下垂から修正します。半年ほど待ってから眼瞼下垂も併存している場合は上記①②と同じく、腱膜性、皮膚性の評価を行い、それに対して治療を検討します。

眉下垂の挙上固定については、「顔面神経麻痺 静的再建」になります。当院では眉上切開からCARAJIアンカーで引き上げて固定し、眉の位置を左右揃えています。

④先天性眼瞼下垂

先天性については、挙筋機能が低下もしくは機能していないことが多く、その程度を見極めることが重要です。症例によって挙筋機能の動きは様々であり、もし挙筋機能の動きが残っているなら、挙筋前転での対応も検討煮上げて良いと考えます。ほとんど動いていない、もしくは「他院で挙筋前転したが全然上がらない」というような状況であれば、初回手術から筋膜移植による前頭筋・瞼板固定が推奨です。小児では全身麻酔にせざるを得なく、非常に調整が難しく、詳細は専門書や論文を参考にしてください。

大人になってからの先天性下垂の治療希望患者もおられます。その場合は局麻で術中座位とりながら、筋膜移植による吊り上げ量を調整できるので、小児よりはやりやすいと思います。いずれも症例が「後天性下垂」に比べて少ないため、若手の形成外科の先生にとっては、なかなか経験できない手術になり、そういう意味で難易度が上がるかもしれません。

ICの要点

眼瞼下垂症の手術は見た目が大きく変わります。挙筋前転術では特に目元の腫脹が強く、術後2日目がピークで1週間くらいで改善します。1ヶ月半くらいまでは二重が腫れぼったい印象になります。初対面の人が違和感なくなるのは1ヶ月半くらいです。家族や自分自身は1ヶ月半くらいの状態では、まだ腫れていると感じると思います。3ヶ月ほどすると自分も、家族も見慣れてきて、自然に感じるようになります。6ヶ月ほどで目元に自然な皮膚紋理や小じわも出てきて、ナチュラルな感じになり、follow upも終了となります。

眼瞼下垂は「下がっている眼瞼をぱっちり開ける治療」なので、見た目の変化に周りから色んな指摘を受けるかもしれません。場合によっては心無い一言を言われる場合もある程度覚悟しておいてください。見た目も自然になるように最善を尽くしますが、下がった瞼を人工的に上げる手術です。多少の左右差や、挙上した状態での軽い違和感は初期には出てしまうことがあります。

またご家族でしっかり術前に「手術すること」についてコミュニケーションをとっておいてください。家族に内緒で手術をうけても、すぐに分かります。ご夫婦は当然ですが、離れて暮らしている息子さん、娘さんなどにも術前には一言「手術を受けること」についてもお話しておきましょう。自分の「目元」ですが、家族にとっても「思い出のある目元」である場合もあります。一声、悩んでいるから手術を受けるとお話するだけで、大抵は理解してもらえます。心配させたくないから内緒で手術をうけて、のちのちに「なんで言わなかったの」と言われてしまう事例も経験がありますので、ご家族のコミュニケーションは大切にしてください。

まとめ

眼瞼下垂の初診時対応についてまとめました。

手術経験の浅い先生は「初回の診察で手術を決定しない」ことを心がけてください。患者さんとしっかりコミュニケーションをとって、説明をしっかり行い、治療方針についても自分で自信もって行えるようになってから、手術を決めていくようにしましょう。

Photo by Alex Iby on Unsplash