顔面の骨折に対する初療対応【形成外科医の引き出し11】

【はじめに:『形成外科医の引き出し』について】
形成外科学会認定指導医(医局無所属,医師17年目,皮膚腫瘍外科分野指導医,創傷外科分野指導医)による形成外科保険診療・美容診療の外来診療のポイントを疾患別にまとめています。形成外科医・皮膚外科医を志す若手の医師向けに書いていますので、一般の方には難しい表現もあるかもしれません。ご了承ください。

緊急性があるか、入院の必要性があるか否かの判断

形成外科で対応する顔面骨骨折には以下の5つが挙げられます。

・頬骨骨折(+頬骨弓骨折)

・鼻骨骨折

・眼窩骨折(眼窩底)

・上顎骨骨折

・下顎骨骨折

・前頭骨骨折

特に多いのは鼻骨骨折でしょう。その次が頬骨骨折、下顎骨折という順になるかと思います。

この記事では「若手形成外科医の初療」という視点で書いています。顔面骨骨折の初療に遭遇するのは

①救急外来への呼び出し 

②近医からの紹介状持参で外来初診

この2パターンがほとんどでしょう。

まず真っ先に大切なのは「緊急性の判断」「入院の必要性の判断」です。とくに受傷早期の救急外来呼び出しパターンでは、即座に判断が求められます。

当然ですが、外傷の程度が重度な場合や出血制御が怪しい場合は入院経過観察が良いと思います。腫脹が高度になるので不安が強そうな人も短期入院で診ていいと思います。骨折が局所的で、全身状態は安定しており、食事や生活上問題なさそうであれば緊急性は無いため、手術日まで通院follow upでもかまいません。

病態的に緊急事態な状態も見逃さないようにしましょう。ただ、そういうものについてはきちんと患者さんを見れば直感的にわかることが多いです。たとえば眼窩底骨折の下直筋絞扼、緊急OPEが要ります。たいていは激痛と嘔吐、目が開けられないくらいパンパンに腫れているなど、普通じゃない所見だらけです。早急に上級医にコンサルトしましょう。

必要な検査

Image by Roland Steinmann from Pixabay 

骨折を疑うなら必ず「顔面CT」を撮影します。

水平断、冠状断、矢状断の3方向と、3D-CTの追加もオーダーしましょう。(気が利く放射線技師なら言わなくても撮ってくれますが、バイト先とかだとしっかり指示しないとスルーされる場合があります)

エコーで外来レベルで皮質骨のズレの有無などを見ることも有用です。普段から見慣れていないと評価も難しくなりますが、小児などでは無駄なCTを避けるためにも使えます。

「あきらかに骨折がなさそう」な場合でも、家族としては腫れているから心配。検査も要りませんと説明されたけど、なんとなく不安そう・・・そういう場面、エコーがおすすめです。安心のためエコーを家族さんの見ている前で行って説明してあげてください。万一ずれが見つかった場合は、ちゃんとCTも撮りましょう。外来に高精度のエコーがあることが前提になりますが。。

単純レントゲンも初療で撮っておくべきです。骨折部のfollow upに使うときもあります。単純で骨折部2方向は忘れず撮りましょう。

診察で必要なポイントは

・眼球運動の評価 上下左右  :制限ある場合は写真も

・咬合の異常の有無

・開口制限の有無

・眼窩下神経領域のしびれの有無

鼻骨骨折では「鼻出血の有無、どちらから鼻出血があったか」なども必要です・

触診で局所疼痛についても確認しておきます。鼻骨骨折に気を取られて、関節突起骨折を見逃すなど、触診や問診をきっちりしていれば見逃す率は下がります。

治療のプラン提示

それぞれの骨折の治療については教科書や文献を参考にしてください。

外来や初療(救急)で必要なのは、その骨折の治療が「手術を要するのか」「入院を要するのか」「どれくらいの治療期間になるのか」を大まかにでも説明してあげることです。

顔面骨骨折は高齢者だけでなく、スポーツや喧嘩、転倒・事故などで若い方が受傷されるケースも多い疾患です。仕事や学校を休んだり、プランを立てておく必要があるので、初療の所見で治療プランの提示をしてあげると、一旦帰宅して、次の診療に来院されたときに、スムーズに手術の日程調整などに入れることになります。

当院の考え方ですが、基本的に骨折受傷から2週間以内に治療を行うという前提です。受傷1−3日の急性期は腫脹が強く手術にあまり向きません。5日〜10日位が理想的です。各疾患ごと、あくまで骨折の程度や状況、その方の合併症有無などでも変わりますが、標準的な流れを知っておくことで説明の仕方の基礎ができます。

<鼻骨骨折>
局所麻酔 1泊2日 (麻酔が我慢できそうなタイプ・年齢の方)

全身麻酔 1泊2日:痛がり、怖がり、小児、複雑な骨折の場合

<頬骨骨折>
全身麻酔:5〜7日程度の入院 (状況により早期退院も可能)

<上顎・下顎骨骨折>
状況による。
顎間固定を伴う場合、食事になれるためにも2週から4週の入院になることもあり。

<眼窩底骨折>
全身麻酔:5−7日 腫脹次第。かなり腫れる。

<前頭骨骨折>
めったにない。環状切開になるなら2週程度の入院を勧める。

手術に必要な準備

骨折の症例を初療し、手術が必要と判断したらその準備を整える必要があります。

・手術の日程、時間の調整:一人で出来ない手術が多いです。一緒に手伝ってもらう先生のスケジュールや、手術室の枠キープなども含め手配しましょう。

・手術に必要な機材の準備:吸収性プレートやチタンプレートなど、骨折部を固定する材料には様々なものがあります。自分で決めれる場合は病院資材担当や納入業者などに連絡して、必要な日時を伝えて調整可能か連絡しましょう。当然1−2日の猶予が必要になるので、余裕をもって連絡するべきです。

・手術に必要な知識の復習:教科書や文献を10種類は読みましょう。解剖の把握も手術のたびに行います。

Image by Tumisu from Pixabay 

・イメージトレーニング:患者さんが手術室に入室してから、病室に戻るまでの一連の流れを「可能な限りリアルに」イメージしましょう。
例えば・・・


入室⇢ベッドに移動⇢麻酔科が挿管・麻酔開始⇢ベッド毎動かして手術のポジションをとる。挿管の固定はどちら?正中、口角固定? 
術者はどちらに立って助手はどちらに?消毒は何を使う?イソジン、ザルコニン?
オイフはどういうサイズをどうかける?タイムアウトでは何が必要?
画像提示しておかないと麻酔科に申し訳ないよ。。準備機械は確認できる?
プレートの準備やドリルの準備は?業者は何時ごろに来る予定?
さあ、執刀。どこから切る?眉外側、睫毛下、口腔内?どこからスタートするの?麻酔はどういう針でどこにどれくらい打つ?剥離に使う剥離子はどういうものを準備する?七浦?剥離子セットを使う?整復するときは麻酔科に連絡を。
眼心臓反射で徐脈になるかもしれない。レートに注意、整復した。うまく戻らないときはどうする。固定の手順は?プレートの準備や整形の手順は?下穴ほって、タップを切って、本ちゃんのビスで固定して。あ、仮固定してからにしよう。3箇所順にとめて、洗浄して。縫合はバイクリル。骨膜はPDS。糸の太さは?ドレーンはどうする?手術後、抜管時に気をつけることは?退室して病室に。家族にはどう説明する?

イメージトレーニングとはこういう感じで行います。これを何度も何度も、出来る限り細かいところまで想像して、抜けがないように行います。手術までの数日間、暇があったら手順を想像します。術後はイメージトレーニング出来ていなかったことをしっかりOPE記録などに書き込んで自分の資産にしましょう。

Photo by Anne Nygård on Unsplash

広告