経営的貢献には手術件数よりも入院患者数が大切

形成外科の手術点数はお手頃価格

形成外科の手術単価は他の診療科に比較すると、安価なものが多くなります。たとえば一番多い皮膚腫瘍摘出術は

K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)  長径3センチメートル未満 1,280点

すこし工夫して皮弁形成術にしても

K015 皮弁作成術、移動術、切断術、遷延皮弁術 25平方センチメートル未満  4,510点

なかには1万点、2万点を超える手術もありますが、他科の手術点数に比べると低額で良心的な設定のものが多いと思います。

また形成外科のそれらの疾患の患者さんは入院は必要なく、日帰り手術でほとんど対応できます。患者さんにとっては大変喜ばしいことだと思います。

しかし経営的な目線から考えると、若干辛いところもあります。たとえばがん診療の診療報酬について具体的な数字を見てみます。

がん診療の入院(手術含む)費用負担

部位診療 
実日数
(A)
点数総数
(B)
入院1日
当たりの
保険点数
(C)=(B)/(A)
平均在院
日数
(D)
入院にか
かる平均
保険点数
(E)=(C)*(D)
自己負担額
(E)*10円*3割
307,7891,479,227,0604,805.9819.392,755.37278,266.11
結腸279,1571,422,789,4305,096.7416.684,605.81253,817.43
肝臓158,735770,751,8034,855.5918.891,285.06273,855.18
404,1611,848,355,4564,573.3120.995,582.28286,746.83
乳房119,957694,102,8855,786.2612.572,328.30216,984.90
平成27年度社会医療診療行為別調査より

H27年度のがん診療の部位別の診療報酬平均値です。手術も入院も含めた費用の平均値です。だいたい1入院にかかる費用は90万円程度(自己負担額は3割で27万円程度)になっています。

当然ながら外来手術も大切な診療であり、患者さんのトラブルを解決することが第一なのですが、病院スタッフの一員としては病院経営についても無視はできません。皮膚腫瘍の小手術を月に60件近く頑張っても、ようやくがん診療の患者さん1名の1連の治療費と同じくらいになります。入院患者さんからは手術費用+入院費用(日数分)いただけるので、医療労働時間と収益のバランスを考えるなら、入院手術の症例を増やすことが求められます。

経営的に安定した運営の形成外科とは

形成外科で安定して入院患者を増やすのは、なかなか難しいことです。良性腫瘍も眼瞼下垂も、下肢静脈瘤も、短期入院で対応できます。外傷は程度によっては長期になりますが、症例の数は救急外来の患者数とも相関しているため、救急に患者が集まらない病院にとってはあまり期待はできません。

一方で形成外科で長期入院患者となり得る疾患もあります。「褥瘡・難治性潰瘍・足壊疽」です。長期化しすぎて困ることもあります。褥瘡・難治性潰瘍・足壊疽の患者さんの診療は「綺麗」な印象の形成外科とは真逆な「苦しい(患者さんが苦しむ)」「汚い(便まみれ・膿瘍まみれ)」「危険(患者さんが高齢で亡くなることも多い)」を背負うことになります。当然それらの診療の中で「きれいに治す」形成外科スキルが生かされます。褥瘡・難治性潰瘍・足壊疽の診療は他の形成外科疾患の診療より、精神的にも肉体的にも「しんどい」領域です。個人的にはその「治りにくさ」の中に面白さ、やりがいを感じているので苦痛はありません。形成外科でもこれらの領域が嫌い・苦手な先生方も多くおられます。そのあたりは個人の自由ですが、経営的な視点からすると形成外科が占拠していくべきフィールドだと思います。

なにごともバランスが大切です。日帰り手術や短期入院手術の件数を増やしながら、一方で褥瘡・潰瘍・壊疽の長期入院の診療も力を入れて、総合病院で可能な範囲の美容診療を並存させていければ、総合的に収益性にガタつきが少ない医療を展開できると今は考えています。地域の総合病院の中での形成外科の役割をしっかり把握して、経営的にも安定した運営が理想的です。

広告