褥瘡の治療に亜鉛補充が必要な理由
褥瘡保有患者や高齢で皮膚脆弱性が高い患者では、基本的に低栄養状態で維持されている場合がほとんどです。そもそも栄養状態良好で皮下脂肪が十分あるような方には、特殊な場合を除き、あまり褥瘡は発生しません。低栄養状態が続くと亜鉛が欠乏状態であることが多く、実際の重度褥瘡患者に亜鉛の採血検査を行うとほぼ大半が「低亜鉛血症」です。
亜鉛は「細胞分裂」や「核酸代謝」に重要な役割を有しており、体内で酵素の成分となったり、たんぱく質の合成や細胞再生に関わっています。そのため欠乏すると「創部の修復力が低下し、創傷治癒が遅れる」ことになります。
亜鉛欠乏症の診断基準
①以下の臨床症状・所見のうち1項目を満たす。
臨床症状:皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染症、味覚障害、貧血、不妊症
検査所見:血清ALP低値
②上記症状の原因となる他の疾患が否定される状態
③血清亜鉛値
60μg /dl未満:亜鉛欠乏症、 60〜80μg/dl未満:潜在性亜鉛欠乏
④亜鉛を補充することで症状が改善する
低亜鉛血症の治療
ノベルジン錠®︎25mg(酢酸亜鉛水和物製剤)
1回1−2錠、1日2−3回、最大1日6錠(亜鉛として50mg/2錠)
ポラプレジングOD75mg(ポラプレジング口腔崩壊錠)
1回1錠、1日2回、1日2錠 (亜鉛として34mg/2錠)
低亜鉛血症治療中の注意点
当然ながら亜鉛の過剰摂取は副作用を生じます。嘔気・嘔吐や消化器症状、立ちくらみ、神経障害などが報告されています。また亜鉛を過剰摂取すると銅の吸収が抑制されます。銅の欠乏は鉄の利用を抑制するため、内服開始後は1ヶ月に1回は定期的に亜鉛・銅・鉄の採血をセットで測定することを推奨します。
血清亜鉛の低下させる「亜鉛キレート作用」を有する薬剤もあり、注意が必要です。亜鉛キレート作用がある薬剤は以下の通りです。
利尿剤:フロセミド、トリクロルメチアジド、スピロノラクトン
抗パーキンソン剤:イーシー・ドパール
制吐剤:プリンペラン
抗生剤:ダラシン、ミノサイクリン
抗甲状腺薬:メルカゾール
ステロイド:プレドニン
これらの薬剤を長期内服している場合には、特に亜鉛欠乏症に注意しましょう。
実際の褥瘡治療での応用・実践
当院では褥瘡患者が入院した時点で、なるべく亜鉛・銅・鉄の採血は行っています。外注検査になるため結果がでるのに1週間ほど要します。創部の処置や経口摂取の状況、効果的なポジショニング・除圧を色々と検討しながら治療を進め、1週間ほどすると血液検査の結果が返ってきます。ほぼ8−9割以上は亜鉛欠乏があるため、患者さんの状況にあわせてノベルジンの処方を行います。1日2回投与で必要量は満たします。経口摂取ができない方は胃管や胃瘻からの投与なども検討します。
1ヶ月後くらい経過したら2回目の亜鉛採血を行い、データの改善具合を確認します。入院時のデータに比べると改善していることがほとんどで、創部も治癒傾向にあり、亜鉛値も正常化していれば内服はすみやかに終了します。
当院が行なっている在宅訪問診療でも亜鉛の採血は行なっています。
褥瘡は処置やポジショニング、栄養など少しのバランスが崩れると治癒が滞ります。いくら良い手術をしても、処置に手間をかけても、良好なポジショニング、体位変換をチームで協力して実現しても、栄養不良で治癒遅延してしまう場合もありますので、細やかな対応が求められます。