2021年の「或る形成外科」を振り返る(保険診療編)

2021年の「或る形成外科」を振り返る(保険診療編)

2021年も残すところ、あとわずか。1年を振り返り、今年特にチカラを入れたことや、来年に向けての課題など色々考えてみたいと思います。

一般総合病院である当院の形成外科保険診療では、通常の一般形成外科診療に加えて4つの特色を前面に出して診療アピールしています。「眼瞼下垂」「下肢静脈瘤」「フットケア」「褥瘡・難治性潰瘍」の4本柱です。そこに美容自費診療を加えて5つのアピールポイントを有しています。

保険の4つに加えて、経営的な視点からの総評についても考えてみたいと思います。

眼瞼下垂関連

Photo by alpay tonga on Unsplash

挙筋前転の手技が安定したと感じます。手術時間も両目で50分程度に抑えられ、低侵襲な挙筋前転術を追求した結果、術後のダウンタイムが非常に改善しました。術後の満足度が安定して得られた1年でした。

眉下皮膚切除による余剰皮膚切除、眼輪筋タッキングによる皮膚弛緩性の下垂修正が増えました。単純な皮膚眼輪筋切除に比べてダウンタイムも少なく、引き上げ効果(改善度)についても満足度が高くたもてていました。

課題:未だに眼瞼下垂の治療が「形成外科」と結びつかない患者さんがとても多いです。まぶたのことなので、まずは眼科に受診されてしまいます。地域柄、眼科ではほとんど治療されておらず、患者さんは眼科で相談しても「手術適応なし」と言われてしまい、治療したくても諦めている人が非常に多くおられました。

形成外科医として、眼瞼下垂の患者さんを見かけたら「形成外科で治療できるということ」「症状に悩まされているなら保険診療で治療が可能であること」「視野が狭いことによる危険やQOL低下は治療により改善可能であること」をしっかりお伝えしていく必要があると感じました。余計なお世話と感じられる患者さんも中にはいるかもしれませんが、外来でお声がけしていると7割位の方は「悩んでおられる」印象でした。手術にまでつながる患者さんは、その中で3−4割程度でしょうか。(感覚的です)結構多いなと感じます。

眼瞼下垂を治療していると必ず関連してくる付随的要因についても、たくさん経験しました。たとえば「先天性下垂」「挙筋機能の廃絶」「他院での症例の修正」「内眼角贅皮」「重瞼ラインの明瞭化」「三白眼」「睫毛内反」「眼瞼内反」「霰粒腫」など。どの要因についても自分なりの解決策を「外科的に」「安定的に」提供できるようになりました。眼瞼下垂に加えて、これらの付随要因に並行して対応していくことが多くなってきました。

下肢静脈瘤関連

Photo by Alex Azabache on Unsplash

血管内焼灼術は実施医・実施施設を取得したのが2019年、それから安定して症例数が増え、指導医も取得し、当院から実施医が生まれるようになりました。昨年当院で勤務していた二人も実施医を無事取得され、今年の後期研修医も実施医がとれそうです。

下肢静脈瘤は患者さんごとに血管病変部のバリエーションが豊富で、今年1年でも様々な病態の下肢を治療させていただきました。

穿刺の技術やTLA麻酔の技術など、経験数で向上していくテクニック的な要素も大きいのですが、疾患の評価や術後ケア、治療についてのわかりやすい説明など、患者さんの満足度を上げていくポイントについても学ぶことが多かったです。

来年はグルー治療についても実施していきたいと考えており、現在いろいろ手続きを行っています。2019年12月から保険適応になり2年が経過し、実施施設も増えて、合併症や患者さんの反応なども色々見えてきました。導入については慎重に様子をうかがっていたのですが、選択肢は多い方がよいと思います。

うっ滞性潰瘍の患者さんもたくさん見ているので、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターも資格を取得しました。

フットケア関連

Photo by Anne Nygård on Unsplash

重度症例から軽症例まで概ね「治療方針」がしっかり固まってきた印象があります。フットケアは迷いなく治療を進めていけることで、下肢切断が防げたり、外来で延々と処置がつづく悪循環を断ち切れたり、患者さんにとって良い提案ができるようになったと思います。大切断に至った症例は昨年よりかなり少なかった印象ですが、全身管理が大変だった患者さんは年度前半には多かったように思います。

特に爪の治療については「ワイヤー治療」や「VHO式矯正治療」など一過性の矯正治療ではなく、フットケアドリルによる爪甲ケアと日帰り手術治療を組み合わせて健全な爪の状態に整え、難治性であっても基本的には1ヶ月以内に治癒・改善に導けるようになりました。若年性の陥入爪トラブルは近年特に増えています。靴の影響や生活スタイルの問題などが影響していると思います。そういう意味で、靴・インソール診療に対して、医師がいかに介入し、患者さんに治療として提供していけるかを課題にしています。

足・爪・足底にトラブルを抱えている人は非常に多く、適切な治療を提供しないと問題はだんたん大きくなります。このあたりのケアに注力している病院・クリニックはまだまだ少ないので、地域のフットケア関連の悩みが少しでも少なくなるように、受診のしやすい体制を考えていきたいと思っています。

褥瘡・難治性潰瘍関連

Photo by Annie Spratt on Unsplash

褥瘡の訪問治療については、2020年6月〜2021年6月ごろまで、当院退院後の患者さんの施設訪問という形で介入していました。さまざまな施設に訪問させていただくことが出来て、看護師・介護士の方々とも交流させていただきました。正直なところ想像していた以上に施設のスタッフの方々が褥瘡治療に熱心で、訪問すると治療についての質問をいただいたり、LINEで相談を受けたり、こちらとしても新しい発見が多かったように思います。

ポケットを有する褥瘡には、花弁状反転皮弁形成でポケット最深部を開放する手技が非常に有効だと発見がありました。

NPWTに田植え植皮を組み合わせた低侵襲治療にもトライしました。大きな手術に踏み切れない全身状態が不安定な症例でも、田植え植皮は選択可能な治療手段になると思います。

一方で皮弁形成による閉鎖術についても数多く行いました。褥瘡の外科療法はどうしても治癒遷延、創部離開など生じやすく、適応が難しいですが、一気に治癒してリハビリが進む症例もあるため、選択肢の1つとして考えていくべきだと思います。

其の上で褥瘡治療の今後の課題は、「終末期に発生する褥瘡」の治療に対して、どう向き合っていくのが正しいのか。

外科治療が難しい、デメリットが大きい「終末期の褥瘡」に対して、緩和的ケアを積極的に適応していくことが今後高齢化が進んでいく上でニーズが高まるのではないかと考えています。

診療実績・経営視点

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2021年の保険診療初診患者は、グループ全体(形成外科)で見ても上位トップ3に入るレベルでした。競合している病院は500〜800床規模の病院であり、常勤数も4−6名と豊富な形成外科体制です。其の中で2名体制(うち1名は3年目)の当院としては、良く奮闘したほうだと思っています。

特に2021年前半は、形成外科の入院患者数が30名を超えている状態も見られました。平均25名程度の入院患者を2名体制で見ていた4−6月は非常に忙しかったと思います。9月頃から入院患者数と外来診療を少し縮小させていき、現在は10−15名程度の人数になっています。

あまり忙しい状態だと、患者さん一人ずつの処置、診療に対してどうしても時間が取れなくなり、急変患者が生じたりすると非常に日常業務が「ぎゅうぎゅう詰め」の状態になります。昼食など食べれる時間は当然なかったりします。不健全な体制は事故のもとなので、9月から少し考え方を変えていきました。結果として現在の状態は比較的健全な形成外科体制になっていると考えています。

コロナ禍の影響で広報活動や、院外医療機関を巻き込んだイベントが開催できませんでしたが、これまでの活動が効いているのか新患者数はそれほど減ることなく、手術目的の紹介も安定して来院されています。形成外科にかかる人件費の割合が、他病院よりもかなり大きいのですが、直感的に常勤2名体制の現状であれば、入院患者数が20名前後、手術件数が70件/月くらいが、経営的にもOKがでるラインではないかと思います。手術の内容にもよりますが、形成外科は「たくさん手術を入れる」ことで手術室の稼働率を上げることができるメリットもあると思っています。

さて、色々書きましたが、明日は大晦日です。

Photo by Behnam Norouzi on Unsplash