総合病院での形成外科立ち上げのポイント

総合病院での形成外科立ち上げのポイント

これまで形成外科が無かった総合病院に形成外科を立ち上げる際のポイントとして、もっとも大切なことは

  1. ニーズを開拓すること
  2. 業務を仕組み化してスタッフが動きやすくすること
  3. 低コストで立ち上げること

の3点です。

これまで全6施設で「ゼロからの形成外科診療の立ち上げ」を行った経験があります。

土台がある『形成外科診療の引き継ぎ」ではなく、新規立ち上げのほうです。

現在の勤務先では初診・再診を含め1日60名を超えることもよくあります。(9:00−12:00の午前3時間の人数です)

初診の月間件数はグループ傘下の病院(日本最大級)の形成外科統計の中では、ここ数年ずっとNo.1です。病院の規模としては十分の初診獲得が出来ていると考えています。OPE件数も昨年は月間60件ペースをキープできました。

ここまで整えるにはなかなか労力が必要なのですが、回数を経験してわかったことをまとめます。これから形成外科診療を立ち上げようとしている方にとって、すこしでも有益な情報になれば幸いです。全国にもっと形成外科が増えてくれることを切に願っております。

ニーズの開拓、集患のポイント

Image by Gerd Altmann from Pixabay

単純に形成外科の標榜を掲げ、外来の部屋を押さえて、スタッフ・機材を整えて、「さあ今日から形成外科が始まります!」ここまでは、だれでも出来ることであり簡単です。先生が自分でやらなくても病院の事務側が気を利かせて、ある程度手伝ってくれる可能性はあります。

問題はここから。

まずもって「突然始まった形成外科」という診療科に、患者さんは集まりません。たとえば、皮膚科や整形外科、眼科、耳鼻科、心療内科であれば、診療科のイメージがはっきりしているため、突然開設されてもすぐに患者が集まります。

形成外科はそう甘くありません。

一般の方はなかなか「そうだ、形成外科に行こう」という発想にならないからです。

まず診療科のネーミングで損をしています。

形成外科ときいて、一般の人は・・・「美容?」「整形外科と違うの?」「皮膚のトラブルなら皮膚科でしょ」「まぶたのことなら眼科でしょ?」こういう反応される方がまだまだ多いです。特に年齢層の高い患者さんたちには理解できません。総合病院に訪れる大半の方は高齢者です。そこに理解されていない領域ということで非常に不利なスタートとなります。

実際立ち上げ慣れしていないころは、まずは診療のスタートにこぎつけるのに精一杯で、診療初日から1ヶ月くらいは患者さんが1日に1−3人といった、非常に寂しい状況を経験しました。

大切なのは「開設前にニーズを開拓して、集患の種をまいておくこと」です。

集患にはいろんなやり方がありますが、ここでは基本中の基本、ゼロからの院内開設で最も効果的な手法を3つご紹介します。

  1. 近隣の手術をしない皮膚科の先生に直接会いに行く。
  2. 院内の受付や会計近く(とにかく人の集まるところ)に、持ち帰れる疾患別パンフレットを設置する(補充や管理はその近くで業務している事務スタッフにまかせる)
  3. 医療講演イベントを近隣住民向けに開催する(コロナ禍では非常にやりにくくなりました)

他にも様々な集患テクニックはありますが、ゼロからの開設でまずやるべきことはこの3つでしょう。いずれも結果に直結してくるやり方なのですが、一つひとつ時間をかけて丁寧に行う必要もあり、労力もかかります。この3つを立ち上げ前から準備しておくことが非常に大切です。

業務の仕組み化

ゼロからの立ち上げは「業務の仕組み化」を作るのも医師の仕事です。当然、形成外科がやろうとしていることが誰もわかりませんので、仕組み化も誰もやってくれません。外来の流れはどの病院・クリニックにもあります。外来診療はそれに準じて、形成外科診療の流れを作ります。

・受付→初診問診→診察→処置→予約再診

・受付→初診問診→診察→手術説明→同意書→検査→手術当日→手術施行→薬の説明→手術記録→次回予約→抜糸

これらの患者さんの流れで発生する「算定可能なコスト」「病院持ち出しになる物品」「必要な書類」このあたりの業務を仕組み化、マニュアル化してスタッフに周知できるようになる必要があります。

勤務医で長く続けている先生には難しいかもしれませんが、開業の先生なら「当たり前」のことだと思います。

低コストでの運営

Image by Nattanan Kanchanaprat from Pixabay

立ち上げに必要な物品、医療機械、消耗品などを選定して、購入準備する必要があります。

最初にゼロからスタートするときは本当に大変です。一度立ち上げを経験すると、テンプレートが出来ますので、必要な物品や消耗品一式は立ち上げを繰り返すたびに厳選されていき、今では「必要最低限」の物品一覧がわかるようになりました。

これも業務の仕組み化をしっかりしておけば、それぞれのシーンで必要なものをリスト化して、数ある医療物品の中から選定してコスト意識を高めていくことで実現が可能です。

ガーゼ1パックいくらぐらいなのか、アドソンのピンセットがいくらくらいなのか、皆さんわかりますでしょうか?必要ないと思われる先生もいるとおもいますが、案外そういう身の回りのコストを把握することは、業務の繊細さにつながることもあり、大切なのではないかと思ったりします。

とにかく形成外科診療科として立ち上げて、うまく収益化するにはコストを低く抑えることが大切です。無駄なものを一切入れずに、利益率を増やす。先日取得した簿記の知識がここでは非常に役立っているように思います。

すでに他の診療科が動いている病院やクリニックに、あとから形成外科を立ち上げる場合、その病院の保有機械やすでに流れができている消耗品を確認して、本当に必要なものだけセレクトしてリスト化し、提案すると受け入れられやすいと思います。外科的な流れのある病院であれば、それこそ立ち上げ資金は最低限で考えるなら50万程度に収まることもあります。形成外科の収益性と、自分がそこで働くことにより必要になる人件費、そこに立ち上げ資金、ランニングコストも考慮して「形成外科新規立ち上げ」を提案すると、経営側からも喜ばれスムーズに話がまとまります。

参考になれば幸いです。メールなどでご相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。

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