形成外科の地域医療における役割

形成外科の地域医療における役割

患者数の多い一般的な皮膚外科診療を、高い満足度で提供することが求められる

希少な疾患の治療はマンパワーの多い大学病院や高度医療施設にまかせる

形成外科の診療は非常に幅広く、身近なものであれば皮膚のほくろや出来物の日帰り手術治療から、高度なものになると大学病院で行われるような頭頸部の悪性腫瘍切除後の遊離皮弁再建まで、診療の質的にも難易度的にも、扱う対象の年齢としても非常に多岐に渡ります。

大きく以下の5つの分野に分けて考えられます。

①創傷外科:やけど、怪我、治りにくい難治性潰瘍(床ずれや糖尿病の足壊疽)、他科手術後の術後合併症による傷の治療

②再建外科:外傷やがんの切除後にできた組織の欠損に対して、顕微鏡を用いて組織を移植する高度な治療。

③先天異常:からだの表面の生まれつきの形態異常を外科的手術で正常に近づける治療。口唇裂、多指症、小耳症、でべそ、副耳など。

腫瘍外科:からだの表面にできた出来物の治療。ほくろや皮膚がんなどを切除し、目立たないように元通りに再建する。

美容医療:シミやたるみ、スキンケア、アンチエイジングの治療、瞼の二重治療など。

どの領域もそれぞれ奥が深く、またその一つ一つの疾患についてもエキスパートになるには相当の経験が必要になります。

顔面外傷、手足の外傷に対する繊細な治療

転倒して顔を擦りむいた、打撲した。

料理で指を切った。先端ごとスライサーで削り取るように切ってしまった。

自転車でコケて足に大きなキズを受傷した。

「よくある状況」「よく見る創傷」にたいして、いかに質の高い治療を施すか。患者さんが痛くない治療を実践できるか。子供の治療であれば、泣かずに「痛くなかった」と言わせられるか。お母さんを安心させてあげられるか。どれくらい傷をきれいに治せるか。治ったあとの傷跡にまで配慮して、患者さんの心の傷にも向き合って支えてあげられるか。

もし「たかが小さなキズ」と思っている人は地域医療の形成外科には向いていないと思います。

質の高い日帰り手術

Image by Debora Alves from Pixabay 

ほくろが痒くて気になるので取りたい。

背中に脂肪腫ができて気になる。

まぶたが垂れて鬱陶しい。

局所麻酔で日帰りで手術を実施します。我々にとって手術は日常です。1日に6−7件もこなすときもあります。でも患者さんにとっては「緊張する瞬間」です。いかに日帰り手術を安心して受けてもらえるか。薬の説明を丁寧にしてあげられるか。準備から最初の麻酔の針を刺すときに安心させてあげられるか。手術室の雰囲気作りに気を配れるか。終わったあとの傷の処置について、緊張から開放された直後の患者さんに落ち着いて理解させてあげられるか。抜糸の痛みを気にしてあげられるか。術後のきずあとについて責任を持ってあげられるか。

もし「たかがホクロ」と思っている人は、地域医療の形成外科には向いていないと思います。

褥瘡・足壊疽など難治性潰瘍の対応

施設から床ずれが治らなくて相談に来る。

糖尿病の未治療の患者さんが足の裏に傷ができて臭っている

長年なおらない足の傷を近所の皮膚科で10年近く消毒だけつづけている

なかなか治らない傷に対して、治す技術と知識が最も深いのは「形成外科」です。もし形成外科が「治らない」と言ってしまうと、それ以上の医師はいないかもしれません。自分たちが最終関門を担当しているという気持ちで、常に患者さんに向き合いましょう。難治性潰瘍を治すことは決して簡単ではありません。手術の傷は「治って当然の傷」です。血流のよい場所の傷も「だれでも治せる傷」「ほっといても治る傷」です。派手な遊離皮弁で治すことはとても技術の高いことですし、それはそれで大切なことかもしれません。初期医療の環境では派手な技術よりも「褥瘡を確実に治癒に導くことの出来る泥臭い治療」「見た目なんて気にしない、目の前の傷を改善させる技術と熱意」が何より大切になります。遊離皮弁が上手な先生が、95歳の仙骨の褥瘡を治せるとは限りません。(治せるかもしれませんが)専門性が違うのです。

もし「褥瘡なんてみたくねーよ」と思っている人は、地域医療の形成外科にはこないでください。こっちからお断りです。

陥入爪・巻爪・胼胝・外反母趾・扁平足・下肢静脈瘤など足トラブルに対する治療

Image by cnick from Pixabay 

深爪をきっかけに爪が食い込んで痛みを感じながら1年以上経過している中高生

爪が「の」の字のように巻いて食い込み、近くの皮膚科でワイヤーで矯正されては自費費用を請求され、はずしたら再び巻いて、また自費のワイヤーを入れる、変な宗教みたいな治療に巻き込まれた患者さん

外反母趾で悩む患者さん、機能治療が得意な整形外科になぜか「見た目だけの骨切り」で対応され、見た目の外反母趾は治ったが開張足・扁平足はノーマークで痛みが残存し、「私の手術にインソールなんかいらない」と逆ギレされて、こっそり別の形成外科医師に相談にくる。

足に小さなトラブルが起きると、生活の質(QOL)が非常に下がります。もし患者さんの感覚を体験したいなら、たとえば足の裏に小石をテープではって1日生活してみると、共感できるかもしれません。足は非常に大切です。使えていた足が使えない日々は苦痛です。ちょっとした爪の食い込み、ちょっとした靴とのスレであっても、その人にとっては一大事です。足の治療を求めてさまよう患者さんを一人でも受け入れて、正しい治療を提供していくのが地域医療形成外科の役割だと思います。

もし「爪なんて皮膚科でしょ」なんて思っている人は、地域医療の形成外科には向いていないかもしれません。

Photo by Andreas Gücklhorn on Unsplash