<2020年6月24日 初回投稿、2020年10月30日 リライト>
床ずれ(褥瘡)が出来た!原因と対策は?
高齢・寝たきりになると、自分で寝返りができなくなり、同じ姿勢で長時間圧迫された部位に床ずれ(褥瘡)ができます。食事量も少なくなり、痩せて骨の突出がひどくなった患者さんでは、あっという間に骨にまで至る重度褥瘡に進展したりします。
褥瘡の治療と予防に大切なことは、「圧」と「ずれ」です。原因をはっきりさせて、対策を講じれば、褥瘡は治癒に向かい再発を防ぐことができます。
「圧」による褥瘡
シンプルに考えると、自重により骨突出部と下になるもの(ベッドマットやふとん)に挟まれた組織が酸素欠乏状態となり、組織が死んでしまう状態です。
寝たきりの場合はお尻の骨の突出部(仙骨部)がよく起こる場所です。
予防しようとして側臥位にしていると、腰のあたり(大転子部)に生じます。
踵に注意を払っていないと、やはり圧迫が加わり、ベッドと接する踵部に褥瘡は生じます。
圧による褥瘡は、突出部の骨とベッドが挟まれて自重により疎血状態になるため、骨から皮膚までの全ての組織がダメージを受けることが多く、深い褥瘡になります。生じてすぐには水泡や赤み、暗紫色などの見た目ですが、徐々に死んでしまった組織が朽ち果て、表面から黒色化してきます。1−2週間もすると壊死した部位と生き残った部位の境界がはっきりしてきます。壊死した組織を除去(デブリードマン)していくと、骨に至るまでほぼ全てが壊死している場合が多く、塞がるまでの治療が長期化します。
死んだ組織は残存していると周囲にも悪影響を及ぼすので、基本的には全身状態を見ながら全て除去します。除去が完了すれば、じわじわと組織修復されてきて、真っ赤な肉芽が増生されてきます。創部が真っ赤な肉芽で覆われたら、創部収縮や上皮化が始まり、ゆっくり治癒していきます。
大きさにもよりますが圧による褥瘡で骨まで壊死してしまった場合は、治癒するまでに保存的治療であれば3〜6ヶ月ほど必要になることが多く、それ以上かかることも稀ではありません。手術加療を併用すれば1〜2ヶ月に短縮することができます。
全身状態が悪くなって生じることが多いため、褥瘡の手術治療は危険も伴います。ただし保存的治療も、体液漏出を伴う傷とともに長期間管理を要するため、それはそれでジワジワと弱って致命傷になりかねません。全身管理とタイミングを見計らって、適切な時期に確実に治癒につながる繊細な手術を要するのが、褥瘡の手術療法です。
怪我(外傷)や皮膚ガン(悪性腫瘍)の再建などでは、うまくいって当然な皮弁手術でも、褥瘡の場合は手術部位周辺の環境が悪く、全身状態も決して安定しない超高齢者であり、部分壊死や離開してしまうこともあります。
最近では持続陰圧療法という創部にスポンジをあててフィルムで覆い、機械で浸出液を吸い上げて治療を早める治療がスタンダードになっています。壊死組織が取れた創部に持続陰圧療法を行い、肉芽が綺麗に出てきたら、創部の環境もよくなり、治癒力も十分見込めるので手術へスムーズに移行できます。
圧による褥瘡の予防は「体位変換」に尽きます。介護者の力による体位変換と、圧切り替え式エアマットレスによる自動除圧で発生を防ぎます。最近の圧切り替え式エアマットレスは縦方向のエアセルの入れ替えによる除圧だけでなく、横方向の膨らみ調整で体位変換機能も付いている高機能タイプなものがメインになってきました。機械の進歩により褥瘡予防管理も徐々に楽になってきています。
「ずれ」による褥瘡
圧による深い褥瘡に対して、比較的浅く済む褥瘡も見られます。「ずれ」が影響している場合が多く、ギャッジアップしたときに背中やお尻がずり落ち、皮膚が牽引されたままの状態になり、「ずれ(剪断応力)」が皮膚にかかり、表面の組織が剥離を起こしたり、真皮組織レベルで細胞壊死してしまう状態です。
ずれ褥瘡は深部が壊死していない場合も多く、真皮内までにとどまった場合、うまく除圧・創部管理を行えば比較的早期治癒が見込めます。外科的治療も不要な場合が多く、軟膏や被覆材を創部の環境や状態に合わせて使い分けていけば、1ヶ月程度でかなりの治癒が得られます。
ずれ褥瘡は、寝たきり患者さんを少し動かし始めた時に出来やすい印象です。たとえば絶食だった患者さんが座位にて経口摂取を初めていく矢先に、ギャッジアップが影響してお尻や背中に出来たりします。
予防として「背抜き」「圧抜き」と言われる手技で、ずれ力がかかった部分を解除する必要があります。ギャッジアップしたり、体位変換した後は必ず、体の下に頭側から足側にかけて、手を入れて滑らせるような動作で「ずれ」を解消します。
状態が悪化したときの褥瘡
全身状態が悪化して、体のいたるところに褥瘡が発生してくることがあります。生命を脅かすような重度な病態の場合、昇圧剤などで必死で血圧を保っているような状態の場合には、体の末梢の血管は収縮して褥瘡が発生しやすい状態になります。
言うまでもなく、全身状態の改善が先決です。こう言う状態の場合に褥瘡に下手な侵襲を加えると、全身状態の安定化のほうにも影響がでてしまうことがあります。「木を見て森を見ず」にならないように、無理に壊死組織の除去などはせず、浸出液の漏出が少なく済むような「創部のミイラ化」なども一つの方法になります。
いずれ全身状態が安定すれば、褥瘡の積極的治療に移行していける場合もあります。慌てずにその時を待ちます。
傷の痛みは治癒すると治る
中には褥瘡の手術治療を推奨しない医師もいます。治療した経験上で痛い目でも見たのでしょうか。よく「高齢で手術なんて、痛い思いをさせないでもいいんじゃないか」という説明を聞きますが、褥瘡自体が痛みを強く生じる場合も多く、患者さんは終わりのない痛みに苦しみます。
褥瘡は治癒すれば、当たり前ですが痛みがなくなります。
踵の褥瘡など、触れただけでも激痛で暴れる患者さん達をしっかり向き合って見ていると、「痛い思いをさせないために手術しない」という考えは生まれない気がします。なんとか治癒させて痛みを取ってあげたいという思いから、「低侵襲」で「確実な手術」を組み合わせた治療が、現状では最適なのではないかと考えています。
なかなか治し切れない褥瘡も中にはありますので、日々勉強と反省を繰り返しながら診療に当たっています。