鼻骨骨折の治し方

鼻骨骨折の治し方

顔面の骨折の治療は形成外科で行います。なかでも鼻骨骨折が最も件数が多く、手術になる例も多くみられます。過去には1週間に4件続いたこともありました。鼻骨骨折の整復の仕方は単純で、「骨がずれたところを元に戻す」だけです。他の部位の骨折のようにピンを打ったり、ネジで止めたりはしません。単純なのですが、治療上のポイントはいくつかあります。いかに患者さんにとって「痛みが少なく」「楽」に受けてもらえるか、解説します。

全身麻酔か局所麻酔か

鼻骨骨折の中には、左右の一方だけ、それも1箇所のみが骨折してずれて段差になっているような、程度の「軽いもの」と、複数箇所が骨折してバキバキに粉砕しており「変形の高度なもの」があります。

軽症例は局所麻酔で対応可能で、粉砕骨折状のものは整復や固定に時間がかかるので全身麻酔のほうが患者さんにとっては「楽」だと思います。全例、局所麻酔で行うことも無理ではありませんが、患者さんの不安や恐怖心が強い場合もあり、手術の内容や患者さんの性格などを総合的に判断して、全身麻酔のほうが良いと判断する場合は1泊2日程度の短期入院で対応しています。

全身麻酔で行う場合、患者さんは痛みを感じないので術者は気が楽です。思う存分整復して、内部から折れた鼻骨を持ち上げてスポンジで中から持ち上げるように固定、ギプスを上から当てて終了します。術後の鎮痛のために点滴を入れたり、多少浸潤麻酔や局所麻酔を併用することもあります。患者さんは寝ているうちに終わりますし、喉元に血液が流れても挿管されているので、患者さんはむせることもなく、落ち着いて手術を行うことが可能です。

局所麻酔の場合は、痛みをなるべく感じないようにするためいくつかの手順を踏んで麻酔を行います。

まず鼻腔内に麻酔の染みたタンポンガーゼを数枚挿入して鼻腔粘膜から麻酔を効かせる浸潤麻酔を行い、それが効いてくるまでの間に眼窩下神経ブロックという伝達麻酔を頰の中央付近の神経の出口に向けて局所麻酔で施行します。鼻全体がじんわり位痺れてきたら、鼻腔内に詰めていたタンポンガーゼを抜去して、鼻腔粘膜側から骨折部に直接局所麻酔の注射を行います。骨折部の前面と裏面、鼻中隔にも局所麻酔の注射を行います。左右とも施行するとほとんど鼻の骨折部周囲の感覚はなくなります。麻酔するだけで15~20分程度かけています。

局所麻酔がうまく効いていれば、骨折部を整復する時の痛みはほとんどありません。ただし局所麻酔の場合、意識もあり、喉元に血液が流れたりするとむせるので、時々吸引したりしながら、出血への配慮も必要になります。なるべく一瞬で整復を完了させて、スポンジによる内固定とギプス外固定をスムーズに行います。手間取ると呼吸が苦しくなりパニックになってしまう患者さんもいるので、整復に時間がかかったり、患者さんが怖がりの方だったりする場合は全身麻酔を選択しておくほうが結果的には安全だと思います。

手術は一瞬で終わる時も

片側の骨折だけで、ずれて凹んだだけの骨折であれば、手術はあっという間に終わります。金属製の棒のような器具を、鼻腔内から骨折で凹んだ部位の裏側に挿入して、外側から骨折部を触って陥凹を感じながら「パキ」っと整復します。局所麻酔であれば、本人も整復時の「音」を感じます。エコーで骨折前のずれは必ず確認しておき、整復後にどう変化したかを確認します。綺麗に整復されていれば、手術終了です。早ければ手術操作自体は5分ほどで終わります。

うちでは鼻腔内に「メロセル」というスポンジタイプの固定具を用いています。ギプスには「アクアプラスト」という熱可塑性プラスチックを用いています。前額部と両頬で支えて、鼻骨整復部に外力がかからないようにします。ギプスはテープで固定します。

費用について

手術のコードは「K333: 鼻骨骨折整復固定術」になります。点数は2,130点です。1点10円の計算ですので、21300円が手術費用です。そのうち、3割負担の方であれば6390円、そこに局所麻酔や入院・全身麻酔の費用がプラスされます。

案外安いと感じるのは自分だけでしょうか?中にはバッキバキの骨折もありますが、程度にかかわらず上記の手技で行う場合はすべて同額です。保険診療の点数って、手間や難しさを無視した設定のものもありますが、その1つかもしれません。できれば整復の容易なものと複雑なもので点数を変えて欲しいところです。

痛みない治療がコツ

鼻骨骨折は比較的簡単な手術です。ただし局所麻酔で整復するときに「痛みをなるべく感じさせない」のが臨床上のポイントになります。

運動系の部活で若者が鼻骨骨折を受傷することがよくあります。近くの耳鼻科や形成外科で、その場でほぼ無麻酔で整復されたりする場合もあり、その場合は痛みを強烈に感じます。若者(中高生)は部活で体験談を話すので、同じように部員が骨折したら皆、そのエピソードを思い出し恐怖で震え上がります。最近では当院でほぼ無痛で治療した高校生が、部員にそのエピソードを話し、遠方からもわざわざ当院を選んで来てくれるようになりました。

治療は簡単なのですが、いかに痛みを抑え患者さんが安心して治療を受けられるかを考えることが鼻骨骨折のコツだと思います。