褥瘡の治療のための栄養評価

褥瘡の治療のための栄養評価

褥瘡患者の治癒促進のために、栄養評価と栄養状態改善は出来ているようで出来ていないことの多い部分です。褥瘡の治療は長期化することが多いので、入院治療などでは初期の1週間の急性期治療・評価が落ち着けば、陰圧療法などの安定期に入るので、その頃に集中的に検討して、改善を試みることが推奨されます。栄養改善が創部治癒に影響し、ジワリと効いてくるのは数週間ほどかかりますので、慌てることではないですが早めに対策しておくことが手術の成功、早期治癒、退院へとつながります。

寝たきり患者の身長・体重の推定

まず必要なデータはKN:膝高(cm)、AC:上腕周囲長(cm)、CC:ふくらはぎ周囲長(cm)、Age:年齢(年)です。膝高、上腕周囲長、ふくらはぎ周囲長はベッドサイドで測定できます。

<身長>

男性の推定身長(cm)=1.88×KN(cm)-0.23×Age(年)+87.00

女性の推定身長(cm)=1.50×KN(cm)-0.30×Age(年)+104.86

<体重>

男性の推定体重(kg)=0.91×KN(cm)+1.93×AC(cm)+0.61×CC(cm)+0.18×Age(年)-72.26

女性の推定体重(kg)=0.37×KN(cm)+1.19×AC(cm)+0.89×CC(cm)-25.38

基礎エネルギー消費量(BEE:Basal Energy Expenditure)

w:体重(kg),h:身長(cm),a:年齢(歳)は上記にて算出したものを使用します。

男性 BEE(kcal)=66+(13.7×体重)+(5×身長)-(6.8×年齢)

女性 BEE(kcal)=655+(9.6×体重)+(1.7×身長)-(4.7×年齢)

やや煩雑なので、簡易式での算出でもOKです。多少の誤差は気にする必要はありません。

男性 BEE(kcal)=14.1×体重+620

女性 BEE(kcal)=10.8×体重+620

必要エネルギー量(total energy expenditure)

必要エネルギー量(kcal)=基礎エネルギー消費量[BEE](kcal)×活動係数×ストレス係数

活動係数(Activity Factor:AF)は、日常の活動状態によって設定された係数です。日常生活では、軽労働~重労働で 1.2~1.8 を活動係数となります。入院中の活動係数としては、寝たきりでは 1.0~1.2、歩行可能の場合は1.3 を用います。

ストレス係数(SF: Stress Factor)は、侵襲度や病態の重症度によって設定します。特に褥瘡の程度でも違いがありますが、通常 1.2 ~ 1.5 となります。

褥瘡患者の場合、経口摂取に問題がある場合も多く、誤嚥のリスクがあったり、そもそも食欲がなかったり、全身状態が悪かったりするため、必要エネルギー量を達成できる場合のほうが少ないです。徐々に量を上げていき、必要エネルギー量を目指します。

褥瘡管理で重要な栄養素の基準値一覧

 基準範囲(低値)基準範囲(高値)単位
総蛋白6.58.3g/dl
アルブミン3.85.3g/dl
プレアルブミン2240mg/dl
レチノール結合タンパク2.57.1mg/dl
トランスフェリン190320mg/dl
48188μg/dl
カルシウム8.810.4mg/dl
71132μg/dl
亜鉛80130μg/dl

蛋白・アルブミン

体内のたんぱく質、アルブミンの低下は、褥瘡の発生要因となります。
アルブミン合成の低下時は、たんぱくの異化作用によって、血中のトランスフェリン、プレアルブミン、レチノール結合蛋白も同時に低下します。筋肉量の減少などによる骨突出、皮膚組織の耐久性の低下を招き、アルブミン値が下がることで体内の水分保持機構も狂い、血管外への水分漏出から浮腫が発生し、褥瘡が発生しやすくなります。
たんぱく質は、線維芽細胞増殖やコラーゲン生成などの皮膚組織の再生に不可欠の栄養素でもあるため、褥瘡治療上では必要な栄養素です。

Rapid turnover protein(RTP)といわれる血中半減期の短い血漿蛋白が

レチノール結合蛋白(半減期t1/2=0.5日)

トランスサイレチン(プレアルブミン:半減期t1/2=1.9日)

トランスフェリン(半減期t1/2=7日)

の3つです。褥瘡患者の場合、これらがすべて正常化するというくらいまで栄養状態が改善することはあまり見られません。もともとベースとして栄養不良があるから褥瘡が発生しているわけなので、完全に元に戻ることはあまり期待できないのですが、なるべく正常化に近づける努力は必要です。

鉄・カルシウム

鉄は血液の造血に影響し、創傷治癒の観点からは「組織への酸素運搬」能力に影響していると考えられています。カルシウムについてはコラーゲンの架橋形成作用があるため、こちらも創部の治癒力に影響する栄養素と考えます。院内の採血検査で簡単に評価できる栄養素なので、入院期間中に1度くらいは調べて、対応しておくのがよいでしょう。

亜鉛・銅

亜鉛はタンパク質合成や酵素活性に影響し、銅は造血に影響します。いずれも不足しないように評価が必要です。亜鉛と銅の必要性と対応については以前の記事で詳しく紹介していますので、そちらを参照いただければと思います。