形成外科医が専門医を取得し、指導医になるまでの道のり

形成外科医が専門医を取得し、指導医になるまでの道のり

形成外科として一人前と言えるには長い道のりがあります。一つの目安として「形成外科専門医」という肩書きがあり、その上に「形成外科指導医」があります。この肩書きも、年々制度が変更となり、近年の改正ではいくら経験を積んでも大学医局との繋がりなくしては取得できないような制度に変わってきてしまいました。無所属形成外科医としては辛いところで、若手の形成外科医が勉強できる体制づくりをいくら頑張っても、大学との連携がなければ人材が来てもらえない状況です。

そもそも「形成外科専門医があれば安心」というのは幻想でしかありません。専門医を取っても、それはあくまで書類と試験に合格しただけであり、「経験不足」や「技術不足」なジャンルは形成外科医であれば誰しもあります。一つの通過点であり、形成外科専門医・指導医の取得の道のりの延長で、自分の専門分野の症例経験をいかにたくさん積むかが非常に重要になると考えています。

形成外科専門医・指導医になるまでの道のりについて解説します。

形成外科専門医になるには

現在は旧制度と新制度が並存しています。いずれにしてもまずは大前提として

日本国医師免許証取得後 年以上

臨床研修 2 年の後、資格を有する研修施設において通算 4 年以上の形成外科研修を行うこと。

の経験が必要です。

新制度の適応となるのは、医師臨床研修(国の医師臨床研修制度による)を2018年3月末もしくはそれ以降に修了予定の医師とされています。それ以外の医師については旧制度での規定が適応されます。(旧制度は今後はあまり関係なくなるので省略します)

「資格を有する研修施設」というところで、大学との繋がりが生じます。大学を主とした基幹施設と、大学所属の医局関連病院の連携施設が病院群を形成し、専攻医は、その基幹施設のプログラムに登録し、病院群をローテイトします。大学とは関係のない基幹施設もないとは言えませんが、正直なところかなりの大病院に限定されており、医局と切り離されているとは言え少なからずどこかの大学と連携を組んでいる場合がほとんどです。

つまり医師になってまず2年は医局と関係なく初期臨床研修を各臨床研修指定病院で行い、その後3年目からは基幹施設のプログラムで4年間の形成外科研修を積むことになります。大学医局を主としたプログラムなので、形の上では明確な入局制度ではないですが、実情としてはほとんど入局しないと専門医がとれないのと同じことです。これまでのように独自にリクルート活動しながら形成外科認定施設を渡り歩いて4年間の研修を積み、専門医を取得するというのは不可能になりました。プログラムとされているのが、以前までの「医局人事」ということになります。突然転勤が言い渡されていたシステムが4年間ある程度事前にわかるようになったことはまだ良心的かもしれません。

専門医になるために必要な症例数の記録や講習受講・論文など

<症例の経験・記録>

①申請者の受け持った患者で直接手術に関与した 300 症例の症例一覧表 

②申請者の受け持った患者で直接手術に関与した 20 症例の症例一覧表 

③申請者が術者として手術を行った 10 症例についての所定の病歴要約

20症例の一覧、10症例の病歴要約は以下の11項目のうち8項目を含む必要がある。

(1)新鮮熱傷(全身管理を要する非手術例を含む) (2)顔面骨骨折および顔面軟部組織損傷 (3)唇裂・口蓋裂(4)手,足の先天異常,外傷 (5)その他の先天異常 (6)母斑,血管腫,良性腫瘍 (7)悪性腫瘍およびそれに関連する再建 (8)瘢痕,瘢痕拘縮,ケロイド (9)褥瘡,難治性潰瘍(10)美容外科 (11)その他

<講習の受講>

日本形成外科学会主催の講習会(学術研修会あるいはインストラクショナル・コース)受講証明書を 4枚以上有すること。

<論文>

少なくとも 1 編以上の形成外科に関する論文を筆頭著者として発表しているもの(発表誌は年 2 回以上定期発行され、査読のあるものとする)。

形成外科指導医になるには

形成外科領 域指導医申請資格は,以下の各項を充足するものとする。

(1)形成外科領域専門医の資格を有し、1 回以上更新を行った者

(2)指導医制度第 3 条の分野指導医、第 4 条の特定分野指導医のうちから複数の分野指導医資格を有する者

<指導医制度第 3 条にいう分野指導医認定の対象となる学会と分野指導医名称>

(1)  日本手外科学会(手外科分野指導医)

(2)  日本美容外科学会(JSAPS)(美容外科分野指導医)

(3)  日本創傷外科学会(創傷外科分野指導医)

(4)  日本頭蓋顎顔面外科学会(頭蓋顎顔面外科分野指導医)

(5)  日本熱傷学会(熱傷分野指導医)

<特定分野指導医の名称>

皮膚腫瘍外科分野指導医

小児形成外科分野指導医

再建・マイクロサージャリー分野指導医

要するにどうやって専門医、指導医を目指している?

とりあえず大学医局もしくはその関連の深い大規模形成外科施設を主とした基幹病院のプログラムに乗っかり、4年は形成外科の先人たちのもとで研修を積みます。上司に恵まれるか否かは運次第です。プログラムの選択肢はありますが、内容は決まっており、医局人事と同じくプログラムの中での派遣先は「研修させてもらう側」に選択権はありません。これまでなら上司の先生と相性が悪い場合は、教授に相談して勤務先を変えてもらったりする先生も多かったですが、プログラムにされてしまうとそういうことが難しくなります。脱落するような先生も出てくるのではないでしょうか。

4年の研修のうちに300症例の執刀・助手経験を積みます。これは余裕です。内容の指定はないのでとにかく300例形成外科の手術に入ればよいからです

単純計算で4年で300例、年間75例、1ヶ月に2〜3例。

20症例と10症例は11ジャンルのうち8ジャンル以上という制約があるため、ある程度満遍なく経験が必要です。特に10症例の症例要約は術前・術後の写真経過が大変ネックとなります。実際有意義に経験を積めていても、術後180日以降の写真がないと「経験症例」に含められません。提出書類のためになんとしてでも術後半年以降の写真を撮ることが形成外科の使命になってきます。

講習会は年2回行われている日本形成外科学会(総会と基礎学会)で開催されているので、4年で8回の受講機会があります。そのうち4回が必要です。「学会にちゃんと出席しましょう」という意図でしょうか。この受講証を取得するために、仕事を休んで遠路はるばる学会の開催地に向かいます。今年はコロナの影響で後日オンラインでの受講も可能になりました。もっと前からこれでよかった気もします。無駄な旅費がなくなりよかったです。

論文1編が必要というのも止むを得ないでしょう。専門医とるくらいなら論文の一つくらい書いた経験があってもいいでしょう。論文1つ書くのにはそれはそれで色々と障壁があります。その壁を乗り越えた証として紙面に掲載されますので、専門医とるまでには1編くらい書いておきましょう。

必要書類が集まったあとは「試験」にクリアする必要があります。筆記試験+口頭試問により選別されます。これについては知識の拡充という意味でも、資格取得には必要なことだと思います。

形成外科専門医が取得できたのち、形成外科指導医を目指します。指導医取得には形成外科専門医+ほか2つ以上の分野指導医が必要になります。形成外科専門医ほどではないですが、それぞれの分野指導医取得にも症例収集、論文や発表の経験、講習会受講などのノルマがあります。形成外科専門医をようやく取得して疲れ切ったところに、さらに2分野で同じような作業を課せられます。当然日常業務も専門医を取ったくらいから徐々に増えて、責任ある仕事も多くなり、それらをこなしながら分野指導医2つの取得を目指します。

それらが整って初めて「形成外科指導医」を取得できます。

このガチガチな指導医制度ですが、2023 年 3 月までは複数の分野指導医を取得していなくても、専門医(学会専門医・ 機構専門医問わず)を 1 回以上更新していれば、指導医として承認されます。現在は自動的に指導医になった先生が多数おられますが、2023年以降は分野指導医2つの取得が必要になるため、指導医が減る可能性があります。大学に関連する先生くらいしか敷居が高すぎて指導医とれなくなるのではないでしょうか。そうなるとますます、専門医は大学医局の関係なくしては取得できなくなります。

ところで形成外科指導医って必要?

正直なところ、取ってしまったから言えることでもありますが、実際の臨床上では指導医は肩書きでしかなく、特に必要ありません。大学に属しており形成外科専門医プログラムの運用上で、コースで引き受けることができる後期研修医を増やすためには「指導医」の数が重要になります。無所属で勤務する場合はまったく関係がなく、メリットは感じません。

本当の意味で重要なのは、臨床の現場での経験症例や技術の勉強、実際の手術でしかわからない感覚を磨いていくことだと思います。そういった技術点数の評価の資格は作るのが難しいのか存在しません。専門医資格として認定するためにはたくさんの書類や記録で判断するしかないのもわかりますが、もっと実臨床に活かせる内容にしないと、いつか破綻するのではないかとおもいます。とにかく複雑すぎ、手間がかかりすぎです。専門医とったけど、オペは一人で出来ないという先生がどんどん増えている気がします。

「専門医って要る?」そんな声がちらほらと聞こえてきています。