救急診療における形成外科の役割

救急診療における形成外科の役割

救急診療では救命が最優先事項であり、重症救急対応時には形成外科の出番は少ないかもしれません。

しかし全国的には、軽症〜中等症の救急患者が90%(内科・外科すべて含む割合)を占めており、そのうち生命には影響しないが機能維持のために細やかな外傷治療が必要になったり、初療で形成外科的処置を時間をかけて行うことで、その後の傷跡が目立たない結果が得られるといった質の高い外傷治療は「形成外科」の本領が発揮されます。

特に軽症50%程度に含まれる外傷治療が上手くトリアージされて、形成外科に紹介されてくるシステムがあれば、その地域の方々の救急に対する満足度も非常に高くなります。

最近の救急の先生方の外傷初期治療の質はどんどん上がっており、以前のような「小児や女性の顔面裂創をステイプラーで留めて形成外科にパス」や「ぱっくり開いた傷をステリーだけでとめて週明けに形成外科受診、来院時にはベタベタでテープもはずれて開放治療になっていた」や、「擦過傷にデュオアクティブを貼ったままで次回受診も説明せず、来院した数日後にはドロドロで臭って感染していた」などの症例はほとんど形成外科の外来では見なくなりました。救急を担当される先生方の質の向上が、救急初期治療のレベルをとても上げていると感じます。

ただ、本音をいうと救急の先生たちが「本気の形成外科医のクオリティ」を目指すのは不可能だとおもいます。当然基本的なスキルアップは必要であり、習熟すべきと思いますが、本来の業務は重症症例の救命治療であり、そちらに時間的にも、体力的にも、マンパワー的にも充てておくべきだと思います。

縫合や外傷治療が上手な先生も多いですが、形成外科はやはり技術職なので、1−2年ほど形成外科診療を学んだだけでは、簡単に同じことはできません。おそらくプライドを持って働いている形成外科の先生方であれば同じ気持ちだと思います。

奈良県と全国の救急医療の現状

救急にも色々ある

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救急の外傷対応といっても色々あるんです。一般の方からすれば、ドラマに出てくるような重度外傷を思い浮かべるかもしれませんが、一次・二次救急まで対応している初期救急の対応をしている病院で実際に多い症状は「高齢者がころんで皮膚が裂けた(縫合要)」や「出来物が腫れて膿が出てきた(切開排膿)」、「足が腫れて熱が出て動けない(蜂窩織炎・入院)」などの症例です。

いずれも形成外科でなくても外科が出来る先生であれば対応できます。形成外科が有難がられる状況は

「三歳の女の子がコケて目の上に3cmくらいの裂創ができて縫合が必要」→単にきれいに縫合するだけだが、女の子・小児というプレッシャーがあり形成外科がいると助かる。

「高校生が部活で鼻に肘があたり、歪んでいる。鼻血が止まらない」→タンポン詰めて後に鼻骨整復術するだけだが、あまり経験のない先生はどうしていいかわからず、形成外科がいると助かる。

「主婦が料理中にスライサーで指先の皮膚ごと1cmくらい削り落として、皮膚ごと持参してきた」→単に植皮すればいいのだが、未知の領域であり、今後のfollow upのこともあるので形成外科にお願いしたい。

ほかにも現場の先生方に形成外科が有難がられるエピソードはたくさんあります。

形成外科はそういう「やりがい」を感じられる楽しい診療科です。

外傷で救急に受診した後は、形成外科でfollow upしてもらうと、良い結果に落ち着いていくかもしれません。

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