オンライン診療を形成外科でどう活用するか

<2020年6月28日初回投稿:2020年12月31日リライト>

オンライン診療を形成外科でどう活用するか

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新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を奮っています。

第一波(3-4月)のときには、日本全国が緊急事態宣言の発令により、自粛ムードになりました。当然病院への来院患者も激減し、外来はスカスカになりました。特に物資の不足は危機的であり、手術用のガウンや手袋が少なくなって、運営に支障をきたしかねない状況を経験しました。今思えば貴重な経験です。
しかしこの経験のおかげで、マスクやガウンのストックの重要性に気付かされた気がします。簡易な手術では手袋だけで行うようになり、余計なガウン使用も減らすことになりました。

第二波(7-8月)のときは、結果論的に「やり過ごせた」感があります。第一波のときとは異なり、物資の不足も生じず、患者さんもそれほど減った印象はありませんでした。手術件数も例年通りくらいで推移したと思います。「国民が慣れてきた」と感じたのもこの頃です。幸い、医療はそれほど影響を受けることなく第二波は収束していきました。

そして第三波。連日過去最高の感染者数を更新し続ける報道。医療緊急事態宣言が叫ばれていましたが、正直第二波のように自然に収束すればいいなと他人事でした。12月中旬からただならぬ気配がたちこめ、東京の感染爆発、関西でも大阪を中心とした医療逼迫状況が、ついには奈良にも影響しはじめています。

まず情報に敏感な患者さんのキャンセルがチラホラ見られるようになりました。形成外科の診療は「不要不急」と捉えられてしまうものも多く、「今わざわざ治療しなくても、コロナが治まってから」と考え、治療が決まっていた人たちが延期するようになりました。

リハビリで通院している方々は連日の報道で通院をやめて「自粛」してくれています。いくら感染対策を取っていても、絶対ないとはいえないから、病院に行かない。理解できます。だれも責められません。ただ病院の経営は悪くなるだけです。GO TO トラベルをわき目で見ながら、流石にGO TO ホスピタルは無理だなと諦めていました。

当院では第一波の時の患者数減少時に、「オンライン診療」の導入を決めました。最初は「ポケットドクター」というアプリ導入によるオンライン診療を展開していましたが、10月ごろより「ZOOM」を利用したオンライン診療に変更しました。実際、総合病院の形成外科で導入・運用してみて分かったことを解説します。

オンライン診療の導入(ポケットドクター編)

「ポケットドクター」
「ポケットドクター(MRT社)」

実際動いたのは4月下旬ごろ、学会から待機できる手術について自粛するよう呼びかけがあったころから、システムの選定、関係各所への協力の呼びかけ、マニュアルづくり、病院上層部への立案を行いました。総務課の協力者の方が迅速に動いていただけたおかげで、まずは自費診療(美容化粧品)のオンライン診療についてのみ限局して5月の連休明け(5/7)より開始可能となりました。

オンライン診療は患者さん側は「スマホ」を使用することを基本として構築されています。システムは「アプリの導入」、病院側ではネットに繋がっているパソコンでの簡単な設定を行うだけで、準備が完了します。

うちでは大手3社で比較検討しました。結局最終的には医療法人本部からの指定で「ポケットドクター(MRT社)」を使うことになりました。

大変なのは病院内での「オンライン診療の受診から会計までの流れ」を関わる各部門に周知して、具体的な形に仕上げるところです。

当院ではアプリ上の会計が法人本部より禁止されたため、振込による支払い対応の流れ、もしくは診療後3日以内に病院窓口に来院していただいて支払いを行う2択にすることとなりました。

「結局、病院に支払いに来るならオンラインの意味が無い」そう思っていましたが、実際運用してみると、ほぼ全例病院窓口での支払いを選ばれています。これは少し意外でした。

オンライン診療(ZOOM編)

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5月から通常診療の空き時間に「ポケットドクター」でオンライン診療を継続していました。使っていくにつれていくつかの不具合が発覚。

1つ目は「パソコンで相手と接続したときの音声の不具合」です。当初診療側はノート型パソコンを使用していました。ポケットドクターの場合相手側はスマホのアプリでつなげてくる状況でした。

音声が相手側には普通に届いているようなのですが、相手の声がこちらのパソコン側から出力されるときにハウリングのような感じで二重に聞こえる現象がつづきました。メーカーに問い合わせたところ、そもそもポケットドクターはスマホアプリ同士の接続を主に考えているため、パソコン〜スマホの接続では音声ハウリングの不具合がでたとのことでした。その後こちら側もスマホにすることで解決しましたが、画面が小さく非常に違和感のあるオンライン診療になってしまいました。

2つ目、ポケットドクターの画面上に資料提示が出来ないことです。美容診療などでは化粧品の使い方マニュアルなど実際見せて説明したいシーンも多くありましたが、ポケットドクターアプリにはファイル共有などの機能がなく、画面に紙資料を見せて説明するという原始的なやり方での伝達になっていました。

これらを改善してくれたのが「zoom」です。コロナ禍で小中学校でもzoomを使って授業されていたり、当院のオンライン医療講演もzoomを使っていました。安定感も使用感も抜群に良くて、10月からオンライン診療をzoomに乗り換えた後のほうが、違和感なく診療出来ていると感じます。先に上げたポケットドクターの欠点も見事に克服、音割れやハウリングは一切なく、資料はパワーポイントやPDFの共有が可能であるため、実際目の前で資料を見せながら説明しているような「いつもの感覚」で診療が可能でした。

オンライン診療のメリット・デメリット

まずオンライン診療のメリットは、「コロナ禍の今、有熱患者が集まる病院にはなるべく行きたく無い」という方にオンラインで簡単な診察と相談ができることでしょう。

形成外科は「皮膚・皮下腫瘍」「眼瞼下垂症」「下肢静脈瘤」「あざの治療」「美容治療」など、いわゆる「緊急性に乏しい良性疾患」が診療内容の大半を占めます。本来空いている時間で気軽に受診され、そこから治療に発展していた患者さんたちが、コロナ禍で来院されなくなりました。オンライン診療は直接触診や画像検査などができませんが、訴えを聞いて治療の流れを説明し、安心して受診できる時間帯に患者さんを誘導することができます。これは予測できたメリットです。

予想していなかったメリットは、「普段仕事で受診しづらい時間帯に気軽に医療相談が受けられる」という点でした。うちでは当初オンライン診療の対応時間を外来診療の最後に設けたため、「11:00~12:30」というお昼の時間帯に、仕事の休憩時間を利用して職場から少し相談するようなケースが見られました。初診ではなく「美容診療」のホームケア製品の追加購入だけだったので、診療はあっさり終了し、必要な製品の発注を受けて、こちらはすぐに会計と製品の準備を行い待機、患者さんは仕事帰りに病院に立ち寄り会計を済ませるという流れでした。

最近ではネットでオンライン診療を予約できるようになりました。開業クリニックのような融通制が、当院にはまだありませんが、今後もう少し予約取りやすくしたいというのが課題になっています。

生駒市立病院オンライン診療予約ページ

https://ikoma.tokushukai.or.jp/section/plastic/inquiry/

特に美容診療のホームケア製品(ゼオスキン ・セルニュー)の追加購入にはメリットがあると感じました。

デメリットは言うまでも無く「実際に見て触診できないこと」「検査がその場でできないこと」です。オンライン診療のビデオ通話は非常に安定しており、通信関連での不具合はほとんどありませんでした。テレビ番組でもゲストのオンライン出演などが普通になり、その辺りの通信技術はさらに進歩するものと思われます。

コロナ禍をきっかけに世の中が変わる

Image by Sasin Tipchai from Pixabay 

一般の方々がZOOM会議やオンライン飲み会、オンライン診療といった手段に「強制的に慣れさせられた」ことで、世の中のシステムが変わってきています。

子供は学校や塾がオンライン授業が当たり前になりました。3ヶ月前には考えられなかったことです。テレビ番組はオンライン出演で出演者が「平面」になっても、結局各家庭のテレビに配信されるときは「平面」配信であり、画質も中継精度もよくなっているので、うまく構成すれば全く違和感がないということに気がつかされました。

先日テレビ番組の3人司会者がそれぞれ別の場所からオンラインパネル出演で、背景がうまくつながるように配慮されて1画面に構成されているのを見ました。「結局これでいいのか・・」と思いつつ「なんと無く虚しさを感じる」と感じたのが本音です。

ここからは個人的な意見ですが、おそらく世の中はどんどんオンライン化が進み、医療も社会もオンラインが必須・当たり前になると思います。コロナ第二波が来ようものなら、さらに急速に進むでしょう。その反面で、直接診療の必要性や大切さ、コミュニケーションの重要性が増してくるはずです。

形成外科の診療の今後は、オンライン診療を「病院受診・相談の敷居を下げるツール」として活用し、「直接受診、診察」の必要性がある方を選別、外来予約につなげていく、こういう流れが予想されます。それに対応した「専門病院」が出てくると、ゆっくり自粛しているだけの病院は一気に患者さんを奪われてしまうでしょう。