若い世代の眼瞼下垂

まぶた外来として眼瞼下垂の専門外来で対応していると、その患者さんのほとんどは中高齢の「腱膜性眼瞼下垂」「皮膚弛緩性眼瞼下垂」で悩んでいる方々です。「睫毛内反症(さかまつげ)」や「眼瞼外反症」の方が時折、症状を訴え訪れます。

比較的少数ですが、若年層の「まぶた」のお悩みもご家族と共に受診されます。

生まれつきまぶたが上がりにくい「先天性眼瞼下垂症」の患者さんは、まぶたを持ち上げる筋肉が動いていないことが多く、目元の印象が特徴的で診断が比較的容易です。手術もまぶたを持ち上げる筋肉の動きを、おでこの前頭筋で代償させる「筋膜移植術」の適応となります。

しかし、小学生・中学生くらいで家族と受診される患者さんの中には「先天性眼瞼下垂」ではない病態の方もおられます。

先天性眼瞼下垂症だけではない

先天性眼瞼下垂症は「眼瞼挙筋の機能が弱い」状態であり、中高齢の腱膜性下垂や皮膚弛緩性下垂とは根本的に病態が異なります。

ただそれとも異なる、眼瞼挙筋の機能は十分保てているが、目元の皮膚のたるみが多かったり、挙筋の動力がうまく瞼の挙上に伝わらない状態のような、「微妙な開けにくさの瞼」の方が存在します。

一見、目つきが悪い顔貌に見えます。生まれつきのものであり、いわゆる「先天性眼瞼下垂」のように明らかな病的な下垂ではないため、病気とも思っていない方もいらっしゃると思います。まぶたも空けようと思えばしっかり開くので、「こういう顔つき」と言われればそのようにも見えたりします。

偽性眼瞼下垂という病名

病名としては「偽性眼瞼下垂」と言われます。この病名って、若干個人的には抵抗を感じます。「偽」ではなく、まぎれもなく病的な眼瞼下垂の一種と思うからです。

小学生くらいの患者さんでお母さんに連れられて来院されるようなこともあります。上の方が普段からまぶたで覆われて見えないとの主訴でした。授業やスポーツなどで影響がでているとのことでした。挙筋は効いているのですが、分厚い一重瞼が重くのしかかり、瞳孔から瞼は1mm程度しか開きませんでした。

高校生で来院された方もいます。コンプレックスを感じ、薬局で販売している二重テープを愛用していました。重い一重瞼と開きにくい瞼の影響で二重テープもあまりうまく貼れず、常に目元がかぶれてしまうと訴えていました。眼瞼挙筋の筋力はまだ保たれているのですが、通常視では瞳孔から1mm程度の開き具合で、あきらかに病的でした。

お二人とも先天性眼瞼下垂症として治療をしてもいいのですが、正式な病態としては「偽性眼瞼下垂」と言わざるをえません。ネーミングセンスの問題ですが、「偽性」という言い方は、何か「偽りの」イメージであり、良い印象を受けません。こんなに偽りなく悩んでいる患者さんに「偽性です」と言いたくないのもあります。「若年性眼瞼下垂症」でいいと思っています。くだらない拘りかもしれませんが、病名は我々医療者にとっては「一つの記録」であっても、患者さんにとっては「重い一言」になりかねません

治療すべき病態は?

これらの若年性眼瞼下垂の方々は、一重まぶたで重ぼったい印象の瞼をされていますので、二重形成がひとつポイントになります。あまり太い二重になりすぎないように皮膚切除は少なめ、重瞼幅は狭めに意識しています。眼窩脂肪が多い場合はとりすぎない程度に一部除去します。

挙筋腱膜は高齢者のように薄く伸びたりしていないのですが、挙筋の作用が若干弱いことが多い印象です。定型的な挙筋前転術と手技は同じですが、術中座位での開瞼幅の評価をしっかり行います。若年者のほうが高齢者に比べて、瞼板前の組織がしっかりと厚みがあり出血しやすい印象があります。展開する操作を繊細に、止血も細かく行う必要があります。

結局やっていることは高齢者の挙筋前転術と基本的には同じなのですが、皮膚や筋肉の張り、厚み、緩み、硬さ、シワの寄り方などが全く異なるため、違う手術をやっているような感覚になります。高齢者の眼瞼下垂症を安定して手術できる方なら問題なく対応できると思います。

手術がうまく行くと、綺麗な二重まぶたで目元がパッチリして別人のようになります。特に小学生・中学生・高校生のような「繊細」な時期の患者さんに手術をする場合は、術後の印象の変化についても事前に説明してあげておかないと、よからぬ中傷を受けることになってしまいます。目元の病気で治療を受けているのに、「美容手術を受けた」など言われて辛い思いをしてほしくありませんので、事前に家族・本人にはかなり時間をかけて説明しています。

術後の患者さんの満足度は非常に高いので、こちらやりがいを感じる治療のひとつです。