瘤の無い「下肢静脈瘤」もある

フットケアに力を入れている当院では、「瘤の無い下肢静脈瘤」が見つかることがよくあります。

たとえば爪白癬や胼胝、外反母趾のお悩みで診療に訪れた患者さんに問診で症状を聞いていると、「足がだるい」「夜間にこむら返りがひどい」「夕方に足がむくむ」という症状を訴えられることがあります。

見た目には「ボコボコ」とした瘤は無く、一見きれいな足なのですが、確かにむくんでいる感じはします。

当院では外来にエコーが常設されているので、そういう患者さんにはその場ですぐにエコーを当てて、大腿内側の「大伏在静脈」と下腿裏面の「小伏在静脈」の2本の血管を見てみます。症状を言われる方であれば、それらの半分以上の方に血管内の逆流所見や静脈の拡張所見が見つかります。

下肢静脈瘤として診断が確定し、治療について相談となります。

そもそもネーミングが微妙

下肢静脈瘤というネーミングは、「ボコボコした足のコブ(瘤)をつくる病気」みたいに思ってしまいます。それは確かにそうなのですが、症状を言い表しておらず、見た目の印象のみを表現した病名であり、患者さんが「静脈のコブがなければ静脈瘤ではない」と勘違いしていることもあります。

下肢静脈瘤の病気の本体は「伏在静脈の内部の弁不全」であり、それによる血液の逆流・鬱血が下肢に浮腫を生じたり、血管を拡張させたりします。逆流して圧が上がれば血管がボコボコと瘤を生じますが、「逆流はあるが皮下脂肪や浮腫も高度で、瘤が無い状態、もしくは目立たない状態」の下肢静脈瘤も多く存在します。

はっきりいって「下肢静脈瘤」というネーミングは微妙です。広く浸透している病名なので今更変えれないでしょうが、病気を的確に表すなら「下肢静脈弁不全症」を大分類として、その下に小分類を「大伏在タイプ」「小伏在タイプ」「不全交通枝タイプ」「深部静脈タイプ」の4タイプに分類するのが妥当じゃないかと思っています。治療方針が4タイプ別に全く異なるからです。

症状があれば治療するべき

治療の一つの基準は「症状」です。瘤がボコボコしていようが、無かろうが、とにかく足の「こむら返り」や「だるくてむくむ」など、辛い症状がある場合は治療対象になると考えています。

眼瞼下垂やあざの治療でもそうですが、命に影響しない良性疾患については「症状」があれば治療対象になります。

足がだるく、静脈瘤が原因になっている場合、放置していても改善はなく、どんどん症状がひどくなっていきます。血管の逆流で静脈圧が高まり、どんどん下肢静脈網全体に負担が大きくなっていくと、それまで壊れていなかった静脈弁も破壊され、膝下遠位側で弁の破綻がひどくなると、もう手術加療が出来なくなってしまいます。

瘤が多くても少なくても、費用は同じ

瘤がボコボコしていない場合の治療も、手術の内容は同じです。当然、治療にまつわる費用も同じになります。

当院では一般的な大伏在静脈の血管内焼灼術の場合、1泊2日で治療を行っています。「大腿神経の伝達麻酔」を使って、手術の領域だけ痺れさせて、針を指す刺激を除去してから、血管周囲にTLA麻酔(低濃度大量浸潤麻酔)を行い、カテーテルを通して血管内から焼灼し、逆流のある大伏在静脈を閉塞させます。

伝達麻酔は呼吸や意識に影響はなく、しっかり起きたまま痛みもほとんどなく治療を受けてもらえるため、安全・安心です。代わりに麻酔がかかっているうちは、足の筋肉の力が入りづらくなるため、歩行ができません。麻酔が切れるのに6時間ほど必要なので、その日は1日入院となります。

翌日朝に、穿刺部のガーゼ交換を行い、歩行に問題ないことを確認したのち午前中で退院になります。基本1泊2日で退院可能です。

費用はおおよそ1泊2日の入院費込みで3割負担の方であれば6〜7万円前後、2割負担の方なら4−5万円程度、1割負担の方なら2万円前後になっていることがほとんどです。(入院中の食事や既存の合併症、手術中の薬剤などにより費用が少し異なります)

下肢の「こむら返り」や「重だるさ」で悩まされている人は、一度「静脈弁不全」を調べてみることをお勧めします。