脂肪腫は手術で取った方がいい?

脂肪腫は手術で取った方がいい?

単刀直入に言えば、「見つかったら早めに取った方がいい」でしょう。個人的には外来に紹介や相談で来院された方には「小さいうちに取りましょう。」と勧めています。理由は「脂肪腫はそのままでは治らず、大きくなってくることが多いため、小さいうちに取らないで置いておくと、いずれ大きくなってより困ることになり、手術の規模も局所麻酔レベルから全身麻酔レベルになってしまうことがある」からです。

脂肪腫は良性腫瘍です。悪性(癌)ではないので、慌てる必要はないかもしれません。ただ機会を逃し、1年2年と放置すると、気づけばかなり大きなサイズになっているということもよくあります。

エコーでは脂肪層とほぼ同じような像で描出され、ときに被膜も捉えることができます。すこしサイズが大きいものであればCT検査で確認するのが最も手軽で一般的かもしれません。筋層と脂肪層はCTではっきり違いがわかります。脂肪層の中に脂肪腫があれば、うっすら被膜につつまれた脂肪腫が確認できます。仮に筋層内に脂肪腫があれば、その境界ははっきりと描出されるので大きな脂肪腫を見たら一度CTを撮影することは有意義です。

わかりにくいものであればMRIを撮影して、さらに詳細を見ることもあります。MRIは高性能なものであれば脂肪の隔壁までわかることがあるので、こちらも有用です。

外来で上記のような画像診断で「脂肪腫」と診断された場合、サイズが2−3cmと小さいなら局所麻酔で30分〜1時間程度の日帰り手術で摘出可能です。5−6cmとなると場所にもよっては麻酔が効きにくくなるところもあり、微妙になってきます。なるべく要望にあわせて対応します。10cmレベルになると、局所麻酔での摘出がかなり「しんどい」ものになります。腫瘍は深部で筋肉に癒着することもあり、腫瘍の裏側に麻酔が届かず局所麻酔での手術が困難になることがあります。その場合は全身麻酔での対応となります。

見つかったら早い目に対応しておけば日帰り、1週間後の抜糸であっさり治療が完了できるので、「見つけたら早めの手術」を勧めています。

脂肪腫の不思議① なぜか「脂肪のかたまり」と表現されるのは「粉瘤」なことが多い。

形成外科には皮下腫瘍の相談が多く来院されます。そのなかで「皮膚科開業医やかかりつけ医から脂肪の塊と言われた」と来院される患者は、脂肪腫ではなく「粉瘤」である場合のほうが多い印象です。

粉瘤は以前にも紹介しましたが、表面の皮膚がまくれ込んでできた「皮膚の袋」のような状態であり、中にたまっているのは脂肪ではなく「垢」です。粉瘤についても取るかどうかと言われたら、早めに摘出を勧めています。以下に以前の記事へのリンクを貼っておきます。

「脂肪の塊」と表現されるべきは「脂肪腫」なのですが、なぜか粉瘤を含めてすべて皮下のしこりを「脂肪の塊」と表現されがちです。詳細は不明ですが、単純にそのほうが患者さんには説明として「楽」なのでしょうか。

来院された患者さんには「脂肪の塊」である脂肪腫と、「皮膚の袋に垢がたまったもの」である粉瘤の違いからきちんと説明しています。

脂肪腫の不思議②病理組織では正常脂肪と区別できない

脂肪腫は摘出後に病理組織検査を行なった結果、確定診断されます。そのときの病理像は「脂肪細胞はほぼ正常であり、正常脂肪と区別できない」と返ってきます。病理学的には「脂肪細胞に異常がないが腫瘍化している」ものということになります。なぜ大きくなるのか不明です。たいていは被膜があり、被膜内部の脂肪が増殖して、脂肪粒自体も大きくなっているのが肉眼的にも確認でき、あきらかに正常な脂肪とは違うのですが、「病理的には正常と変わらず」なのです。

原因も不明ですし、体の脂肪があるところではどこにでも発生します。額は前頭筋下に発生しやすかったり、後頸部は周囲と癒着しやすかったり、部位によって多少特徴がある場合もありますが、それも個人差があります。

体の細胞で、こんなに頻度も多く、場所も原因も不確定で突発的に腫瘍化するものは他にないように思います。ほくろも良性腫瘍ですが、こんな突発的に出現したり大きくなったりしません。個人的にはかなり大きな脂肪腫を見ると何か「人体の神秘」的なものを感じてしまいます。

脂肪腫の不思議③ 大きくなる脂肪腫、小さいままの脂肪腫

脂肪腫は1箇所でやたらと大きくなるタイプのものもあれば、小さくて多発するものもあります。大きくなるものは半年くらいの間に手掌1枚分くらいに拡大する場合もあります。実際はいつから存在していたか不明なので、どのくらいの期間でどのくらいのサイズになったかはわかりません。ゆっくり5−10年ほどかけて育て上げてから来院される方もいますし、短期間に大きくなって相談される方もいます。

一方で、2−3cm程度の小さめなものが全身に多発性に出現するときもあります。多い時には10-15箇所ほどの皮下腫瘍をすべて取りたいと来院される方もいます。

摘出した標本はどれも「脂肪腫」で、病理検査は「正常脂肪と区別できず」です。でも大きくなるタイプと小さく多発するタイプは臨床的には「違うもの」のように感じます。いずれも良性ですし病理も同じなので「脂肪腫」になりますが、臨床経過がここまで違うのに同じ疾患というのも不思議です。基礎研究などしてもらえると何か違いがあるのかもしれません。