足の蜂窩織炎とはどんな病気?
「ある日突然、足の一部に虫刺されが腫れたような部位が生じ、それが数日のうちに周囲に広がり、足全体が腫れ・赤み・熱感を生じるようになった。体の熱も出始めてしんどいので来院した。」こういった主訴で来院されることの多いのが、「下肢蜂窩織炎」です。幅広い年代の方に見られますが、比較的若年層は少ないように思います。働き盛りの中年層から、施設入所されている超高齢者まで、男女問わず様々な状況で生じます。
形成外科が無い病院では、外科で対応されていることが多いですが、リンパ浮腫や下肢静脈瘤を合併していることもあり、当院では形成外科で対応させてもらっています。治療にはいくつか効率的・効果的に治すためのポイントがあります。病態も含めて解説します。
蜂窩織炎の病態
蜂窩織炎の病態は一言で言うと「皮下の脂肪組織に細菌感染が広がった状態」です。きっかけは様々で、小さな外傷(擦り傷・切り傷・虫刺され・水虫・乾燥肌など)から皮下組織に細菌が侵入し、脂肪組織にまで到達して増殖を始めます。侵入経路がわからない時もありますが、炎症が始まった最初の部位は最も腫れが強くなります。脂肪組織の間は比較的水分が移動しやすい状態であり、細菌は侵入したところを中心として四方八方にどんどん増殖していきます。最初は足首くらいの腫れだったのが、徐々にふくらはぎにまで腫れて、2−3日後には太ももまで真っ赤に腫れて熱を持つような状態になります。
腫れの部位が広がると全身の熱になって現れ、全身への影響も出始めます。この辺りで「明らかな異常」を感じ、病院を受診される方がほとんどです。
蜂窩織炎は細菌の感染による炎症であり、原因となる菌は様々です。主に「ブドウ球菌」と「溶血性レンサ球菌」と呼ばれる肌によく見られる菌などが原因菌として検出されます。
<黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)>
皮膚表面や毛穴に常在する菌で、通常に存在しているときは特に問題は生じません。傷を清潔に管理せず、汚染したままにしていると増殖を始め、徐々に皮膚表面の炎症を生じ、それらが深部にまで増殖すると蜂窩織炎に至ります。ブドウ球菌の中では病原性が高いため、炎症も増強します。
<A群レンサ球菌(group A streptococcus: GAS)>
皮膚や口腔内、消化管にも生息する常在菌の一種です。ありふれた病原菌・常在菌の一種ですが、状態次第では劇症型レンサ球菌感染症(壊死性筋膜炎など)と呼ばれる、進行の早い致死性疾患の原因となることがあります。俗に人食いバクテリアと称されることがあります。
蜂窩織炎に陥りやすい状態
蜂窩織炎は皮膚の傷から細菌が侵入することによって発症するため、創部の管理が悪ければ発症しやすくなります。足にできた傷を放置していたり、絆創膏をはったままで交換していなかったりすると発症しやすくなります。対策としては、創部の洗浄・処置を毎日適切に行うことが重要です。
乾燥肌やアトピー性皮膚炎で肌のバリア機能が低下している場合、糖尿病の方や、リウマチ・自己免疫疾患でステロイドを内服されている方などは、細菌感染を深部に取り込みやすくなります。保湿を徹底して、基礎疾患の対策をしっかり行うことで予防となります。
また、皮膚のバリア機能を維持して細菌の侵入を防ぐには、皮膚の保湿を徹底し、何らかの皮膚の病気があるときはできるだけ早く治療を受けるようにしましょう。
臨床上で特筆すべき点は、ストレスによる免疫力低下が大きな影響を及ぼしていることがある点です。特に40-50歳代の仕事が忙しく休めないタイプの人は注意が必要です。過労・不眠・ストレスなどで免疫が低下し、普段ならただの擦り傷で治るような状態が、下肢全体の蜂窩織炎に繋がり、仕事の合間や夜間に受診されます。治療を勧めても「仕事が休めない」との理由で安静も取れず、点滴通院や入院ができない場合が多く、中途半端な「内服療法」となってしまい、増悪します。蜂窩織炎も増悪すると深部の血流不全や脂肪壊死、上層の皮膚壊死にまで至るので、結果として治療が長くなってしまいます。
蜂窩織炎の方で比較的若い方を見たら「不眠」「ストレス」の問診を忘れずチェックしておくことが重要です。
治療のポイント
蜂窩織炎の治療の基本は原因菌に合った抗菌薬の全身投与です。黄色ブドウ球菌には1st choiceとしては第1世代セフェム、2nd choiceとしてはVCM、TEICなどが推奨されます。A群レンサ球菌に対しては1stはペニシリン系(PCG)が、2ndでは第1世代セフェムを選択します。黄色ブドウ球菌にもA群レンサ球菌のいずれも浸出液が出ている傷がある場合は早急に培養検査に出し、抗菌剤の反応が悪い時のために感受性を調べます。膿性滲出液を伴う化膿性蜂窩織炎には、市中メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)をカバーする抗菌薬、すなわちST合剤やミノマイシンなどを併用で使用することも考慮します。
下肢は大抵が高度に浮腫を来しているため、末梢から伸縮包帯・弾性包帯で浮腫を減らすために圧迫固定します。浮腫を圧迫で物理的に減らすことで抗菌薬がより効果的に働きます。入院させて、圧迫・安静・患肢挙上を徹底させることが早期改善のためのポイントです。
発熱や頭痛に対しては対症療法を行います。ロキソニンやアセリオ点滴などで対応します。皮下に膿汁が貯留してくる場合には、エコーやCT、MRIで画像評価を必ず行い、場所をしっかり特定してから局所麻酔下に切開排膿します。培養を採取することも忘れずに行います。当然内腔はしっかり洗浄して、2−3日は内腔にガーゼやドレッシング材を挿入して、しっかりドレナージが効くように処置をします。
臨床的な蜂窩織炎治療のコツ
ストレスや過労による不眠なども関与する蜂窩織炎は、現在のストレス環境からの隔離の意味も込めて入院を強くお勧めします。内服での治療や通院点滴などの治療では増悪してしまうこともあり、極力入院安静、患肢挙上、包帯圧迫、抗生剤全身投与、毎日の処置・観察、すべて出来ることをしっかりすれば1週間ほどで良くなるパターンが多いと感じます。
先にも言いましたが、入院を勧めても「仕事が忙しくて内服でお願いします」という人は要注意です。蜂窩織炎が長引くと組織の炎症による皮下脂肪の不可逆的な繊維化や皮膚の色素沈着などが生じ、引かずに定着してしまうこともあります。
蜂窩織炎は感染してから1年以内、およそ8~20%程度の人が再発するといわれています。再発した場合はなるべく早期に外来受診をして、採血評価などを行い、安静・浮腫改善・抗菌剤投与で沈静化を図ることをお勧めします。