陥入爪の手術について(具体的な流れ)

陥入爪の手術について(具体的な流れ)

<2020年6月27日初回投稿:2020年9月17日 リライト>

足の爪が食い込んで痛くなること、ありませんか?陥入爪は「爪の側方が陥入して皮膚に食い込んで痛みがでる」状態です。深爪がきっかけになったり、爪のささくれを手でひっぱってちぎったりすると、その切れ端が食い込んで生じたりします。陥入爪は形成外科で治療できます。軽傷では軟膏治療やテーピング療法などで治ることもありますが、病院にまで来院される方は大抵1−2ヶ月ほど治癒しないなど、比較的陥入爪が慢性化した状態の方が多く、手術治療の適応になることもあります。今回は実際に手術が決まったという前提のもとに、手術治療の流れについて説明します。

指ブロックによる麻酔

手術室に入室されたら、まず足指の麻酔から始まります。1%キシロカイン麻酔を10mlのシリンジで25Gの針を用いて指ブロックという麻酔を行います。これは指の付け根に直接針を刺して麻酔薬を注入する麻酔法です。

患者さんが痛みを感じるところはここだけなので、なるべく痛みがないように色々配慮しています。指の神経は主に足指の裏側に2本と、背中側に2本、合計4本あります。足指の背中側、指の付け根より注射を刺し、背側神経を1本局所麻酔します。

注射は針を刺す時と、薬液を注入するときが痛みを感じます。1回目の針刺しから、針を抜かずに反対側の背側皮膚と同じ側の足裏側の皮膚に針を進めて皮膚を裏側から麻酔します。こうすることで次に針を刺す痛みを緩和できます。

2回目は背側の反対側から背側神経2本目の麻酔を行いますが、先に行った麻酔が効いていればこれはまったく痛くありません。その穿刺のまま同側足裏側の皮膚も麻酔します。

あとは足裏側の麻酔が効いているところから針を刺して、足底指神経2本を麻酔すれば4本とも麻酔終了です。これも先に皮膚麻酔を効かせているので痛みはほとんどないはずです。

うまく指麻酔を行うと、最初の1回のみの針刺しの疼痛だけで他はほとんど痛みなく完了します。「他の病院」で荒っぽい指麻酔を経験したことがあるような人であれば、その痛みの違いによく驚かれます。子供でも我慢できます。

食い込んだ爪の除去と爪母の切除

手術はまず爪の食い込んでいるところを除去して、爪の「根っこ」にいる爪母と呼ばれる爪を作る細胞をとってしまうところから開始します。爪を除去する幅は陥入の程度や爪の弯曲の程度によって変えていますが、一度細くしてしまうと戻せないので、若年者の場合は慎重に切除幅を決定します。

爪母は爪の根っこの奥に存在します。これは11番と呼ばれる先の尖ったメスで皮膚を傷つけないようにくり抜くように除去します。

こうすることで爪がその切除した幅分だけ生えてこなくなります。爪を抜くだけでは、半年もすると同じところに爪が生えてきてしまい再発する可能性があるため、爪母をうまく切除することが大切です。

フェノール法という薬品で爪母を焼灼する方法をされることもあります。私も過去に行っていましたが、フェノールはあくまで「薬品による細胞の腐蝕」であり、メスで切除するような確実性に欠けます。焼いたところは火傷状態なので治癒が遅れたり、思った以上に焼けてしまうことや、焼き足らずに再発することもあります。11番メスで確実に爪母を除去する方法(狭いスペースですが肉眼でも確認できます)に変えてからは、しっかり取り残しなく爪母を切除できるので、安心感があります。火傷状態でもないので、その後の治癒が安定しているので、ここ4−5年はこの方法で行っています。

欠損腔の縫合閉鎖

爪母を切除したところは5−6mm程度の空洞になっています。先に述べたように火傷の傷ではないので、そのままでも埋まって治癒するのですが、術後の出血など見られるので、圧迫と欠損腔の閉鎖を目的に縫合します。

欠損腔を含めて皮膚側からマットレス縫合という縫い方で縫合します。欠損腔ごと糸で縫い縮めるような形になります。小さな腔なのでだいたい1−2針で閉鎖できます。最後に爪と皮膚を針で寄せて出口も完全に塞いでしまい、出血をなくします。

ほとんど出血しませんが、万一滲み出るような出血があった場合は、その場でガーゼを当てて5分ほど圧迫すれば完全に止まります。完全に止まった状態を確認してからガーゼ保護などのドレッシングを行います。

まだ出血がつづいているのにガーゼ保護してしまうと、そのあと帰宅するときに足に力がかかり、だいたい会計をしているころにガーゼに血が滲み、戻ってこられます。そうならないように、しっかり止血を確認して、帰宅に問題がないようにガーゼ圧迫もきっちり行います。

術後の流れ

手術当日のガーゼ圧迫は翌日夜まではそのままにしておいてもらいます。翌日夜の入浴は「シャワー浴」だけで対応してもらいます。ガーゼは外して構いません。傷のところもシャワーで洗浄し、もらった軟膏を塗布して、絆創膏(指を覆える少し大きめのもの)で保護します。

絆創膏は「一番安いタイプにしてください」とよく説明しています。最近「キズパワーパッド」のようなハイドロコロイド被覆材が「傷が3番早く治る」と宣伝され一般販売されています。こういった術後の傷にハイドロコロイド被覆材を用いると、浸出液が吸いきれなく、過浸軟になって感染を生じたり、縫合糸が被覆材にくっついて剥がすときに糸がほつれたり、値段も高かったりと、色々弊害があります。とにかく「安い絆創膏」で問題ありません。代わりに毎日傷を洗浄して、新しいものに交換してもらいます。浸出液が多い時は1日2回交換しても構いません。

だいたい1週間後くらいに傷の縫合糸は抜糸します。爪母を切除した内腔はまだ1週間くらいでは塞がっておらず、術後2−3週くらいまで傷から汁がでるのが続きますが、徐々に塞がって治癒していきます。

患者さんは爪の食い込みの痛みから解放され、ジュクジュクした不良肉芽もなくなり快適になります。

インソールの適応について評価を

陥入爪が治癒したら全て終了ではありません。原因について考察して、再発しないように後療法についても考慮します。陥入爪は若年者の場合は深爪やささくれいを除去した状態から爪の棘ができて、それが原因で悪化していきます。

単純に爪の棘だけの原因の場合は「陥入爪手術:で治癒したら、今後は爪のささくれを無理にひっぱらないように指導するくらいで安定します。

調べておきたいのは、母趾にかかる荷重が足らない「浮き指」という状態です。扁平足や外反母趾、開張足の関節変形がある場合、足底側に荷重がかかりすぎ、指に力がうまく入っていないバランスの不良を伴います。荷重時レントゲンを上から、横からの2方向で撮影し、足の変形について評価します。

当院では若年者の陥入爪患者、とくに長期難治化している方々には大抵レントゲン撮影していますが、8割くらいの率で扁平足や開張足の変形が見つかります。こういった場合、陥入爪の治癒したあとにインソール療法を提案し、ご希望がある場合はインソール(必要なら4Eくらいの横幅の広い靴も)を作成します。作成後1ヶ月はフットケアに特化したリハビリテーションを週1回で指導して足の変形とバランスを矯正します。フットケア・リハビリテーションについては、また後日ブログで紹介します。

後療法まできっちり行って、陥入爪はようやく安定します。たかが爪ですが、完治を目指すと上記のような流れになりますので、お困りの方は近くの「フットケア」に力を入れている病院で相談してみてください。