<2020年6月26日 初回投稿、2020年10月16日 リライト>
下肢静脈瘤という病気は一言で説明するなら「足の静脈が弁不全を生じ、逆流する状態」です。進行すると様々な症状を呈します。基本的に良性疾患なので、すぐに大きなトラブルになることは少ないですが、放置すると色々と厄介な症状に繋がることもあり、治療に携わる側としては、見つかったら早い目に治療を勧めています。放置していると生じてくる症状について解説します。
足の血管が膨らみ、コブ状に
下肢静脈瘤は名前からイメージできるように、下腿の静脈が膨らみ、コブ状にボコボコと突出してくるような状態です。大伏在静脈という足の付け根くらいから分岐している表在静脈と、膝裏少し上から分岐している小伏在静脈の2本がトラブルを起こしやすい血管です。
人間の血管は「心臓から血液を末梢に送り届ける動脈」と「末梢から心臓に血液を送り返す静脈」の2つが主ですが、下肢静脈瘤でトラブルを起こすのは名前の通り「静脈」です。大伏在静脈も小伏在静脈も足の血液を心臓に戻していく血管であり、重力に逆らって心臓に戻って行くため、血管の中に弁が多数存在しています。
これにより一方通行の流れになり、末梢から心臓に向かって血液が組み上げられて回収されていくようになります。
立ち仕事や肥満、高齢、妊娠後など、静脈弁に負担がかかる状態が続くと弁が破綻して血管の中で血液が一部逆流してしまいます。大腿から徐々に末梢にむけて逆流による負荷が強くなり、膝下あたりから血管への圧力が過剰になり、静脈が膨隆してコブ状に拡張してしまいます。
最初は小さなコブでも放っておくと、徐々に程度がひどくなり、見た目も気持ち悪いくらいの凸凹になります。中にはコブのない静脈瘤のあります。以下に別記事でまとめていますので、興味ある方は読んでみてください。
寝てる間に足がつる(こむら返り)
コブが生じているほどの静脈瘤を有する方は、「夜間のこむら返り」に悩まされていることが多く見られます。静脈鬱滞が続くと筋肉の制御機構に影響が出て、夜間に突然筋肉の過剰緊張が生じ、こむら返りを生じてしまいます。健康な方でも、日中に立ち仕事や運動で足が疲れている日などには夜間こむら返りを起こすことがあります。静脈瘤の方はそれが連続で起きたり、毎晩や2日おきなど頻度が上がります。
私も夜間のこむら返りで時々目を覚ますことがあります。長時間手術や疲労が溜まっているからでしょうか?激痛で本当に嫌になる痛みですよね。
静脈瘤治療を終えた方からよく聞くのは「こむら返り1回の痛みより手術の痛みのほうがよっぽど楽だった」というお話です。こむら返りを頻回に伴う下肢静脈瘤については、良い手術適応と考えています。
足がだるくなって、むくみがひどくなる
それでも放置していると、静脈鬱滞が慢性化してきます。足はだるくなって疲れやすく、だんだん膝下のむくみ(浮腫)がひどくなってきます。靴下の型がかなりくっきり残るような浮腫が出て、皮膚が痒くなってきます。
静脈が血液逆流による逆流を生じ、血管外に水分が漏出して、脂肪などの間質に水がたまってきている状態です。寝ていると足が下にならず、重力の影響が少なくなるので浮腫は改善しますが、日中歩行していると徐々に浮腫がひどくなり、夕方にはパンパンになります。
むくみにより足のサイズが朝と夕方で大きく変わるため、朝履けた靴が帰りにキツくなり、靴擦れなどを生じたりすることがあります。
膝下が黒ずんで、汁が滲み出てくる
慢性的な浮腫が長期にわたって続くと、皮膚の表面の慢性炎症が起こり、かゆみ・ムズムズなどを経て、膝下から足首までが徐々に黒ずんできます。見た目に加えて、皮膚乾燥やかゆみが徐々に増していきます。痒くて掻爬してしまったり、ぶつけて傷がついたりすると、浮腫の影響でその傷から汁がにじみ出てきます。
この辺りになると、普通の健康的な生活が出来なくなってきます。また深部から不全交通枝とよばれる表在静脈へつながる枝の弁不全も伴ってくるため、大伏在静脈や小伏在静脈の治療だけでは完治できなくなってきます。
こういった症状にまで発展した場合は、まずは入院安静をお勧めします。入院で移動量を減らし、下肢にかかる負荷を減らせば必ず一旦治ります。しかし、問題は再発です。一度弁不全を生じた不全交通枝は一筋縄では治せません。弾性包帯や弾性ストッキングなどの保存的治療も組み合わせて、病状に応じた管理を行います。
膝下に自然と傷が生じて治らない
静脈瘤を放置した場合の最終形態は「自然と足に傷が出来てくる」という非常に辛い状況です。弾性ストッキングなどで予防がうまくいっていれば防げるのですが、中には日常の生活負荷が一定レベルを超えると、気付いた時には汁がにじみ出てじわじわと潰瘍が広がってくるような状態になる患者さんがおられます。
中には病院(特に皮膚科クリニックなど)で、創部の消毒処置だけを何年も続けられ、「もう治らないでしょう」などと見放されているケースもあります。触られると痛みが強すぎて、長年処置で痛みを与えられ続け、医療不信になっている患者さんもいます。
個人的な経験で言うと、最も長かった人は20年ずっと治っていなかったという男性の患者さんでした。5年から10年治っていないという人も2−3人います。2−3年治っていないという人は5人以上いると思います。ちなみに全員治りました。鬱滞性潰瘍は、適切な対応さえすれば確実に治せると思っています。
長期に治っていない静脈鬱滞性潰瘍については、患者さんが医療不信気味であることが多いため、最初の診察で「絶対に良くなるから任せてください」と言ってあげることが大切だと感じています。最近の医療ではリスクの説明、合併症の説明などマイナスイメージが先行しますが、こういう医療不信ぎみの患者さんの対応は「信頼関係の構築」が大切なので、最初の数回はそういう関係づくりから始めることが多いです。
静脈鬱滞性潰瘍は治ります。一方で動脈がトラブルを起こした虚血性下肢壊疽は厳しい話になることが多いです。悩んでいる方がいれば、一度ご相談ください。
静脈鬱滞が強い方は「蜂窩織炎」にかかりやすくなります。蜂窩織炎については別記事でまとめています。
早期に治療をしておくことの大切さ
下肢静脈瘤は治療に一刻を争うというような疾患ではありません。ただし放置しておくとじわじわと上記のような経過で増悪してきます。鬱滞性皮膚炎や鬱滞性潰瘍を生じ始めると、不全交通枝まで逆流を生じて治癒が難しくなってしまいます。早期に気づいて、きちんと治療を受けて、弾性ストッキングの着用や生活習慣の改善を行うことで、今まで通りの普通の生活を送ることは可能です。もし静脈瘤かもしれないと思った場合は、時間を作って近くの治療をしている病院で診てもらいましょう。
最新の治療は「血管内焼灼術」です。これについては別記事にて詳しく記載していますので、そちらを参考にしてください。